プロローグ
よろしくお願いします!
【ゲーム】
それは人が作り出しし、もう一つの世界。
無限の蒼穹を生み出し、果てしない人の欲望を実現化してきた世界。
その世界は留まることを知らず、幾多の進化を続けてきた。
まるで生き物のように変幻自在に形を変えつづけ、幾星霜のすえ、ゲームは越えられないとされた一つの壁を突破した。
そう、不可能といわれた”完全なる異世界の構築”である。
ある天才が作り出したフルダイブシステム。
世界中のゲーマーが、プレイヤーが、いや、ゲームを知る全ての人が一度は夢見た桃源郷。
ついにゲームはその領域に足を踏み入れた。
世界で初のその技術を取り込んだゲーム。
たった2万台しか製造されていないそのゲームに世界中のゲームファンが躍起になった。
魔法と剣と夢にあふれた世界
そのゲームの名は≪ニルブヘルム オンライン≫
◆◆◆◆◆◆◆
皆は聞いた事はないだろうか?
此処約二年でネットゲーム、ことオンラインゲームに関して
全ての戦闘ゲームを制覇し、その頂点に君臨したと言われるゲームプレイヤー。
クリア不可能といわれたゲームの数々、そのラスボスをたった一人で単独撃破し、PvPでもチートを使った相手を軒並み倒し、最大スコアの数々を叩き出したそのプレイヤー。
そのプレイヤー名は【アーサー】。
その強さは計り知れず、誰もそのプレヤーのライフゲージが
半分を下回ったところを見たことがないという。
そのプレイヤーは常に違った所からゲームにログインし、誰もその正体を掴むことができない。
年齢不明、住所不明、職業不明、性別不明のその者は、ある者にはゲーム開発のスタッフでは、
と噂されまたある者には実在しないプレイヤーなのでは、と噂されている。
がしかし、そのプレイヤーは実在しその類いまれなるゲームセンスを
駆使して幾度となくその名前を他のプレイヤー達の脳に刻んできた。
そのプレイヤーは他のプレイヤーから尊敬と羨望を込めてこう呼ばれる
『最強』と――
「ふっはははぁぁ! 勝った、勝ったぞ!」
駅の近くに存在するとあるインターネットカフェの一室から少年の高笑いの声が響いていた。
その少年は目の下に隈を作りながらも元気な声で画面に向って勝利の宣言をしていた。
が、その疲労困憊の様子から徹夜でゲームに取り組んでいたのは言うまでもないだろう。
「ついに、ついに、これで250個目のゲームを完全掌握したぞ! さすが俺、よくやったぜ!」
少年は此処がネットカフェであることを忘れ、大声で叫んでいた。
もちろん、少年はただの客でここの関係者でもなんでもない。
そんな少年が朝っぱらから叫んでいたら店長が怒鳴り込んでくるのもいたしかたないことである。
「おいてめぇ! 今何時だと思っていやがるんだ!? 朝の3時だぞ!
他の客の迷惑だろ 出てけ!!」
「ちょ、あの、すませんでした。だから、あの あ!待っ――ゲッ!」
少年は筋骨隆々のマッチョ店長に片手で軽く持ち上げられ外に放り出された。
しばらくすると荷物も投げられてきて、少年はゆっくりと立ち上がった。
「ぃってて、何も追い出す事ないよな。」
少年は服についた汚れを叩き落としながら服装を整えだした。
コートを着込みマフラーを片手で首周りに軽く巻き付け、
手袋をし、最後にメガネをかけたら完成。
「うぅ、 まだこれでも寒いや。 やっぱりもう秋だもんな」
少年はブツブツと独りごとを言いながら駅へ向って歩き出した。
この少年こそ現役高校生にして、『最強』と呼ばれるゲームプレイヤー
朝霧 竜也 18歳 ごく普通の公立高校に通う顔平凡、頭平凡、運動神経平凡の
まさにザ・フツウを極めた何処にでもいるような高校生である。
しかし、やはり人間どこかに必ず秀でた才能があると言われているだけあってか、
彼もこと戦闘ゲームに関して今まで誰にも敗北を許した事がない。
くだらない、と言ってしまえばそれまでだが彼にはゲームだけだった。
彼がゲームというもの惹かれだしたのは今は亡き父が
10歳の誕生日にゲーム機をプレゼントした所まで遡る。
それから彼はゲームという世界に惹かれ始めた。
その頃、現実では体が弱く、外で友達と遊ぶ事も許されなかった彼にとってゲームは
自分のもう一つの世界だった。
そんな彼の幸せにも唐突に終止符が打たれた。
彼が14歳になりようやく外で友達と遊べるようになった頃、彼の父はガンで亡くなったのだ。
あまりにも突然の事であった。父は家族を心配させないために病気のことを黙っており、
そのため竜也は父の突然の死に塞ぎ込んでしまった。
母も泣き崩れ、誰にも頼る事の出来なくなった竜也は学校を休み、ゲームに没頭するようになった。
彼を暖かく迎えてくれるのは向こうの世界だけであったから。
親戚の人達の話によると父は実家から勘当されており、
息子である竜也にもあまり良い目を向けてこなかった。
そしてしばらくそんな生活を続けやっと精神が落ち着き、学校に通い始め
高校一年生になった彼を迎えたのは、またしても不幸だった。
竜也が家に帰ると彼の母の隣に知らない男性が立っていたのだ。
そして母は竜也に対し「彼が今日から貴方の新しいお父さんよ」と言ったのだ。
竜也には最初、母が何を言っているのか分からなかった。
だが取り合えずその場はやり過ごし、そしてなるべくその新しい父には関わらないようにした。
そうしている内に家に居づらくなった竜也は母に転校を願い出て、
新しい学校の近くにアパートを借りた。
そして彼は今に至るのである。
学校生活は別につまらなくはないが、どことなく色が抜けた感じがしていた。
この今受けている授業も、周りで必死にノートにメモを取っている連中さえも
ただ俺にとっては風景の一部でしかなく、その中に俺自身は溶け込むことが出来ないでいる。
周りは何かに急かされるように必死に動いているのに自分だけが世界の枠組みから外されたようなそんな気分になるのだ。
そして今日も一日が過ぎてゆく。
でも今日でそんな生活ともおさらばだ。
俺はついに自分が居るべき世界を見つけたのだ。
今までのゲームとはまったく異なる新技術を搭載したゲーム。
それが今日俺の手元に届く予定である。
今日からはネットカフェを行きき、することなく俺のアパートで新しいゲームをすることが出来る。
この日のためにと送られてくる送金の何割かを貯めておいたのだ。
そして今日世界を震撼させた”あれ”をすることが出来る。
Virtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game(バーチャルリアリティマッシブリーマルチプレイヤーオンラインロールプレイングゲーム)
つまりは、『VRMMORPG』、VR筐体を利用した異世界没入型のゲームである。
今年に入ってから爆発的な人気を誇る≪ニルブヘルム オンライン≫訳して
NFOはその高性能な3Dホログラム技術に付け加え、
完全昏睡状態を使用とした、いわゆるフルダイブ技術を実現化した最初のゲームである。
このゲームは新世代とも言うべき画期的な新技術を搭載したゲームで
今世界でもっとも注目を集めるものである。
このゲームは全世界で2万台しか発売されておらず、
そのほとんどが発売予約と同時に完売してしまい俺が手に入れたのも奇跡に近い。
そして俺はなんと最初の起動実験のためのテストプレイヤー1000人に選ばれる
という栄誉まで受けたのだ。
こうして小説やアニメでしか見たことないものが実現化するとなんともいえない高揚感に包まれる。
俺は早速家に帰ると時間ぴったりに届いた荷物を受け取り、中を開く。
セッティングするとNFOのために作られた専用の
ヘッドマウントディスプレー≪マーセル≫を取り出し被る。
「よっしゃ!いっちょやりますか!」
俺は布団に横になると≪マーセル≫を起動させゆっくりと瞼を閉じた。
ピーン、<システムオールクリア、ゲームを起動します。>
次に目を開けるとそこには何も無い白い空間が果てしなく広がっていた。
横も上も何処までも白い景色が果てしなく続いている。
そしてその中央に俺が一人、ポツンと立っていた。
(すげー、ここまで細かく人間の体を再現できるなんて、作ったのは誰か知らんがこりゃ驚きだな。)
俺がその場で軽くジャンプしながら動作確認を終えると同時に、
ボーカロイドのような機械的な声が上空から聞こえてきた。
<ニルブヘイム オンラインへようこそ。私はこのゲームの制御・総統するメインプログラム。
≪ジェネシス≫です。
この場を借りてこのゲームの概要をお伝えしたいと思います。
このゲームは今までのゲームとはまったく異なる3つのシステムを採用しております。
そのシステムというのが――>
機械音は淡々とこのゲームの概要について話し始めた。
だが俺は事前に内容を頭に叩き込んでおいたので問題ない。
さっさと進めて欲しいのだが、あいにくこのゲームはとばすことはおろか、
途中でログアウトすることが出来ないのだ。
むろん、セーブポイントまで行けば別だが、
しかしこんなに面倒なのにこのゲームはバカみたいに売れる。
それは何故か説明するまでもあるまい。
このゲームはプレイヤー達が世界を占領することを主目的としたゲーム。まあ、いわゆる侵略ゲームだ。
伝説として語り継がれていた大陸レストリア全土を支配し、全てを手中に収める。
そしてその際、最も活躍した一つの種族のみが
天の大陸【アルメギリア】への道が開かれるというものだ。
プレイヤー達はパーティーを組んだり、友達同士で集まったりしながら各地を占領していく・・・
大体こんな感じだ。実に新しい発想で面白いものだ。
おっと、ちょうど説明も終わったようだ。
≪では、概要説明は以上です。次にプレイヤーキャラの設定に入ります。
まずキャラネームを決めてください。
その後、種族、ジョブ等の選択もしていただきます。≫
「りょーかい。じゃ、コンソールを。」
俺の掛け声と同時に目の前にタッチパネル式の画面が現れる。
そこにキャラネームやらを記入すると言うわけだ。
う~ん、キャラ名は・・・いつも通りでいいか。
後は・・・・何でもいいか。
≪入力を確認。【アーサー】様。種族:天使族 ジョブ:剣士 では魔法と剣と夢あふれる世界に行ってらっしゃいませ。≫
再び視界が光に包まれ、足元が消えてゆく感覚に襲われる。
きっと移動要塞にでも転移するのだろう。
それにしても、夢にあふれる世界ねぇ、侵略ゲームが夢にあふれてるのかね。
ま、いっか。面白ければ何でもいいや。
俺はこうして≪ニブルヘルム オンライン≫を着々と攻略していった。
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