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森の中

「なに? 賊の討伐に集まったのはこれだけか」


 アスクはすぐに集まった人数を数え終わり、まゆをしかめる。


「ちょうど十人。正直集まったほうだ」


 ダーリュセンは冷静に告げる。

 しかし内心ではすごく燃えたぎる自分がいることを強く自覚していた。なにせ賊の討伐には金が出ない。上からの命令で渋々行うのがほとんど。にも関わらず、ダーリュセンは唯一この討伐隊に志願して入ったのだ。


「賊の数がわからない以上、人数はいるに越したことはないんだけどな」

「前回は五人だった。それに比べれば今回の十人はかなり集まっている」

「なるほど。わかった、これでいこう」


 アスクはワトランドの言葉を思い出す。重い腰を上げない。その通りだ。いくらなんでも賊討伐が十人というのは少なすぎる。それに前回は五人? これはやはり、何かあるのか?




「俺のことを覚えているか?」


 不意にダーリュセンは口にする。

 アスクは一瞬誰だかわからなかったものの、ちょっと間をおき


「ああ、あの時の門番か」


 あの時とは違い、今のダーリュセンは鎧を身に着けていない。そのせいでアスクは少し思い出すのに時間をようした。


「あの時はすまなかった。俺も見る目がなかった。あんたほどの実力なら、こっちから金を出してきてもらいたいくらいだ」

「あんたじゃない、アスクだ。呼び捨てていいさ」

「わかった。アスク。俺はダーリュセンだ」

「おう。ダーリュセン。それとあの日のことはまったく気にしてない。今はこの賊の討伐に集中しよう」


 ダーリュセンは無言でうなずく。

 今討伐隊は、賊のアジト発見のため街の近くの森に潜っていた。この二人を中心に、残りの八人を二班に分け、三方向に探索を行っている。いずれも距離をあまりとっておらず、どこかの班が襲われれば、救援に迎えるようにしている。


「待て、音がする」

「音?」


 ダーリュセンが聞きなおす。


「………………これは車輪の音か」


 ダーリュセンは首をかしげる。ダーリュセンの耳には、鳥のさえずり声、そして風が奏でる葉の音しか聞こえていなかった。


「気のせいじゃないか」

「いや、違う。これは悲鳴だ!」


 ちっ、と舌打ちをして一気にアスクは駆け出す。


「おい、待て一人じゃ……………くそ、緊急事態プランBだ!」


 そう言い放ち、ダーリュセンもアスクを追う。





 少しばかり走り続け、ようやくアスクは道にでた。周囲に人影は見えない。

 アスクは耳を研ぎ澄ませる。前か、後ろか。はたまた森林の中か。


「後ろか!」

「ちょっと待てって、はあはあ」


 いざ走ろうという時にアスクは肩をつかまれた。一瞬ぎょっとしたものの、振り返るとそこにはダーリュセンがいた。


「あっちだ。あっちで音がする」


 アスクは自分たちが入った方とは逆、つまりは街から遠ざかる方角を指差す。


「よし、わかった。すぐに向かおう」

「少し、ダーリュセンは休んでろ。ここは俺だけで行く」

「馬鹿やろう。俺のどこに疲れが見えるって?」


 アスクは軽く笑みを浮かべ、ちょこんとうなずく。

 そしてもう一度、音のする方へ飛び出す。




「こいつはひどいな」


 思わずアスクの口から言葉が零れ落ちる。


「くっ、最悪だ」


 ダーリュセンは口元を押さえ、茂みに身を寄せる。

 音のした場所。そこにはもう生きた人間はおらず、荷車も姿を消していた。そこにはただ五人の死体があるのみだった。


「近くにもう賊はいなそうだ」


 周りを少し歩いた後、そっとアスクはダーリュセンの肩をたたく。


「すまない。人の死体なんて見るのには慣れていない」

「門番なんてやってたら仕方ないさ。立てるか?」

「ああ、大丈夫だ」


 ダーリュセンは一度肩ひざをついてから立ち上がった。


「俺には、悲鳴も何も聞こえなかった。おそらくこれは相当の手練だろう」

「間違いないな。しかしそんな手練も、少しばかりミスをおかしたようだ」


 アスクの指差す先をダーリュセンを見つめる。


「なんだこれは。血か?」

「そうだ。しかもまだ乾ききってない。しかもこっちに続いてる。間違いなく賊のものだ」


 点々と続く血の跡、それはどんどん未開発の森の中に続いている。

 アスクはある程度まで跡があることを確かめ、道に戻る。


「どうだ、続いていたか?」

「ああ、これはもしかしたらアジトまで続いているかもしれない」


 そうアスクが告げたところで、ようやくアスク達が来た方から、かしゃかしゃと鎧が揺れる音が聞こえてくる。残りのメンバーがようやく追いついたのだ。

 追いついたメンバーは、皆到着するなり口に手をあて草むらに身をよせた。ここに集まったのは、戦闘経験が乏しい、新人ばかりだった。


「つらいのはわかる。だが今はそうしている時間が惜しい。今すぐに本社に行き、応援を要請してきてほしい。主力を軸に大規模な人数をここに連れてくるように」


 ダーリュセンの言葉を聞き、八人が鎧を脱ぎ、街めがけて走り出した。


「あいつらは戦闘経験が乏しい。ああして八人でまとまっていたほうが安心できるだろ」


 アスクはうなずき、


「それでどうする? まさかここでおとなしくしてるとは言わないだろ」

「そうだな。それに応援といっても、組織するのに時間がかかるだろう。ここは俺たちでかたをつけたほうが早い」


 二人は血を辿って深い森の中に足を進めた。

 まだ昼ごろで、先ほどまで太陽が出ていたのに、妙な暗さが森にはあった。途中目印を失いそうになったものの、協力して一本の線を作り上げた。


「止まれ」


 アスクが小さくつげると、ダーリュセンはゆっくりと音を立てず静止する。


「あれが賊か」


 二人の視線の先には二人の人影があった。一人が木陰に倒れこんでおり、それを一人が手当てをしているようだ。


「まだわからない。だが剣を持っている気をつけろ」


 アスクはゆっくりと距離をつめようとする。だが運悪く、ばきっ、と木の枝を踏んづけてしまった。


「誰だ!」


 すぐさま鋭い声が飛んでくる。手当てをしていた男が剣を抜き、二人のほうをじっと凝視する。

 アスクは今にも剣を抜き、飛び出していきそうなダーリュセンを抑えつつ、左手で鞘を触りつつ立ち上がる。


「お前は賊か!」


 男の怒涛のような叫び声。


「違う。俺は賊の討伐に来た武装兵だ。お前の方は」

「俺も賊では…………お前はたしかあの時の護衛の」


 男がじっとアスクの顔を見る。

 そしてアスクもようやく、この顔を思い出した。ゾウルを護衛したときに、ゾウルたちが縛り上げた賊の一人だ。


「落ち着け。俺は賊じゃない。信じてくれ」


 そう言いながら、男は剣を草むらに放り投げた。


「もちろんだ」

「おい、ちょっと待てって」


 と動き出したアスクの足を、ダーリュセンがつかむ。


「まだナイフを懐に隠し持っているかもしれない」

「大丈夫だ。俺を信じろ」


 くそっ、と小さくぼやき、動きだしたアスクの後をダーリュセンもついていく。


「本当に俺を信用してもいいのか? 俺はあそこにいたんだぞ」

「商人相手にぼこぼこにされたやつが何を言うか。本気で殺すつもりだったら、あそこでのこのこ捕らえ

られてないだろ。それにお前からは殺気を感じられなかった」


 ふうと、男は息を吐いた後、少し微笑んだ。


「俺はカージール。そこで寝てるのは、アリスだ」


 じっとアスクはアリスのもとによる。


「これは深い傷だ。誰にやられた」

「賊だ。俺が油断なんてしなければこんな目にあうことはなかった」


 ぐっと、強くカージールは拳を握る。


「お涙頂戴のところ少し悪いが、いつ応援隊がくるかもわからん。血が落ちんように注意しながら、早く逃げた方がいい」


 と、地面を削り血の後を消しながら、ダーリュセンがつぶやく。


「ああ、こいつの手当てが終わりしだいすぐに――――かはっ」


 カージールが地面に倒れこむ。


「お勤めご苦労。後は我々が引き継ごう」


 気がつけばアスクの横に男が一人、そして茂みには五人、いや違う。もっといる。

 アスクはごくりとつばを呑む。


「あんたたちは」


 鋭い眼光でアスクは男をにらみつける。


「我々はシーフェーニュに依頼され、賊の討伐に来た」


 男はふところから紙を取り出した。正式な依頼書だ。


「間違いない。これはシーフェーニュの判が押されている」


 そう言いダーリュセンは紙を返す。


「待て。そいつらは賊じゃない。民間人だ」

「賊に協力するというのか。ならば貴様らも賊とみなすぞ」

「なにっ! 俺たちを賊だと愚弄するか!」


 まてっと、今にも剣を引き抜きそうなダーリュセンをアスクはいさめる。

 茂みの中の人数を考慮すると、明らかにこちらが不利だとアスクは悟った。それよりも、このアスクの前に立つ者が、異常なほどできる男だとアスクは思った。


「賢明な判断だ。お勤めご苦労」


 茂みから男が二人飛び出し、カージールとアリスを連れて行った。

 二人は何もできずそんな光景を見ていることしかできなかった。


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