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シーフェーニュ

 どんよりとした天気模様。今にも雨が降りそうな空の下、アスクは少々重い足取りでシーフェーニュ本社を訪れた。

 依頼をもらえるかどうか、この足で確かめるためだ。夜は酒場で宿代を稼ぎ、昼は依頼を遂行し、この街であるていど名声を高めておこうという魂胆がアスクにはあった。人を集めるには、名が知れた武装兵であるほうが都合がいい。

 


 空に向かって聳え立つシーフェーニュ本社の大きな門の前には、重装備を整えた武装兵が二人ほど立っていた。無駄に剣を振り回し、威厳だけはたっぷりだ。

 まったくご苦労なこった。もっとじっとしていたほうが、話しかけやすいのにな。などとアスクは思いつつ、門の前に近づく。


「ちょっといいかい」

「おう、なんだいひょろいの。入団…………(なめまわすように門番がアスクを見ている)希望者かい、へへ」


 人のことをみるなり、急に嫌みったらしい笑みを浮かべながら問う門番。

 そんな少し見下すような門番に臆することはなく、


「嫌違う。依頼がほしいならここに行けとギルドから言われてね。初級レイドでも中級レイドでもなんでもいい。依頼がほしい」


 特段おかしなことを言ったわけでもない。だが急に大笑いをしだす門番達。アスクはもしかしたら俺には笑いの才能があるのかもしれない、などと能天気なことを思っていた。


「あんたこの街のルールを知らないのかい?」

「確か依頼はここの正式な武装兵にならなければ受けられないんだよな。俺は一ヶ月ここにいるだけだから、その間だけ依頼をくれればいい。もしなんなら一ヶ月だけ籍をおいてやってもいい」


 その言葉を聞きさらに高らかに笑い声を上げる門番たち。

 アスクは少し首をひねる。


「あんた弓兵ではないよな」


 ちらっと、門番がアスクの鞘を見て


「こんなひょろい剣士じゃお雇い武装兵とはいかないなぁ。せいぜい俺くらい強くないと」


 再び大きな剣をぶんぶんと振り回す門番。おいおい、お前ほど強くなんて言ったらここにはお雇い武装兵なんていなくなってしまうぜ。などと、もう片方の門番が口をはさんだ。


 そんな言葉を聞き、少々アスクは幻滅に近い感情を抱いた。その程度のやつしかここにはいないのかい? と。


「もしも弱かったらその日に解雇してくれてもかまわない。一ヶ月だけ俺を雇ってくれ」

「そうかい、ならお雇い料一日百金貨一括払いで三千金貨。先払いだ」

「ふざけるな! 一ヶ月だけで三千金貨なんか稼げない。これじゃあ一方的にこちらが損するだけだ」


 アスクの声に怒りがにじみでているのは、誰の目にも明らかだ。


「上級レイドを一人でクリアすれば三千金貨なんてあっという間だぜ」


 上級レイド。つまりは大規模パーティー推奨レイド。少し大きな魔獣だったり、大人しい種類のドラゴンなど。通常は攻略費用を引いた金をパーティーで分けるため、あんまり割りのいい依頼とはいえない。

 確かに一人でクリアできれば大もうけだが、それができていれば世の中金持ちだらけだ。


「そうか、なら俺は降りさせてもらうよ。入るだけで負債が貯まる派遣会社なんて頼まれたってごめんだ。あいにくうちの会社はただで依頼(魔王討伐)もくるし、入社料なんてものもないんでね(給料なんてものもないがな)」


 皮肉ったらしい笑みを精一杯作ってその場を立ち去ろうとした。

 しかし思いもせず、呼び止めの声がかかり振りかえると


「まだ相談料をもらってないぜ」

「ははは、こんなちょっとした立ち話で金を取ろうと言うのか、話にならん」


 方向を変え足早にこの場を立ち去ろうとするアスクだが、今度はがっしりと肩をつかまれ、


「うちではそういうルールになってるんだ。十金貨置いてきな」


 ものすごい力がアスクの肩を圧迫する。しかしそんな力をものともせず、軽い身のこなしで門番の大きな手を振り払う。呆気にとられたのか門番二人は言葉を失っている。

 ちょうどいい、この場で俺の力を誇示しよう。あいつも言っていたじゃないか。俺よりも強くなくては、と。ならここでそれを示してやればいい。


 極力争いは避けるように決めていたアスクだったが、先に仕掛けてきたのは向こうだ。売られたケンカは、利益があるなら買ってやる。それがアスクの身上だ。


 しかし左手を鞘に添えた辺りではたと気づく。

 そう、彼が持っているのはボロボロの剣。いや違う。実は彼はこの街に来る途中、魔獣(超がつくほどの低級魔獣)との戦闘中に剣を折ってしまっていたのだ。それがそのまま、鞘に収まっているわけで、剣を抜こうものならやつらの酒のつまみにされる。

 さらに状況は2対1、向こうは無駄にごっつい鎧と剣を身に着けている。こちらは鎧はつけず剣はなし。さらに何か起きたのかと、住人たちが集まってきている。


 ふう、とアスクは一度大きくため息をつき、ポケットから銭を数枚ほど投げ、その場を後にした。


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