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短編・季節もの

おいし、少女(おとめ)

作者: 鵠っち

 北窓夜船・・・恋する少女です。

 津々浦湊人・・・幼馴染の男の子です。

 お彼岸といって思い浮かぶもの。様々なものがあるだろうが、彼の場合は幼馴染の女の子のことだ。


「ねえミッちゃん、あそぼーよ」

 ミッちゃんと呼ばれた彼、津々浦湊人(つづうらみなと)は、おいしそうな女の子―名前が(・・・)おいしそうな女の子である―北窓夜船(きたまどよぶね)に引っ張られていた。ちなみに、女の子はその異称のことは知らない。

「夜船。お前勉強しなくていいわけ?」

「いいよ。どうせミッちゃんが教えてくれるもん」

 彼は、そうやってまた人任せにして、とつい言いたくなってしまうが、確かに、どうせいつも女の子に泣きつかれて教えることになるのだ。でも、だからこそ、

「だったら、今は勉強していいじゃないか。勉強させてくれないと教えてやれないよ」

 彼がそう思うのは仕方がないことである。

「むぅー、じゃあ我慢する。でもでも、私が我慢するんだから、ミッちゃんはちゃんと私が満点取れるくらいに勉強しといてよね」

「無茶言うな。だいたい夜船だって、そんなに勉強しなくてもちゃんと七割とか八割とか取れてるじゃないか。わざわざ教える必要ある?」

「大アリだよ! ミッちゃんが教えてくれるから忘れられないんじゃない。そこんとこ、ちゃんと意味を考えてよね……」

「ん? 僕がどうしたって? 聞こえるようにハッキリ言ってくれ」

 女の子が最後にボソッと言ったことについては聞こえていなかったらしい。さらには、小さく「ばかばかばか……」と言われていることにも気付いていない。

「なあ夜船。前々から気にはなってたんだけどさ、ちょっと聞いていいかな」

「な、何よ改まっちゃって」

「夜船はなんで僕の部屋に入り浸ってるわけ?」

「たまには私の部屋に来たいってこと?」

「そうじゃない。もっとほかにさ、クラスのほかの友達と遊びに行くとかないのかってこと」

「それはミッちゃんと一緒にいたいから、全部断ってる」

 彼は「はぁ」と一つため息をつくと椅子から立ち上がって、彼のベッドに寝転がってマンガを読んでいる女の子の目が正面から見える位置に座った。

「……な、何よ」

「夜船っておいしそうだよな」

「な、なに!? 変態! 好きって言ってくれなきゃヤダ!」

「好きって言えばいいのかよ……」

「うん。ミッちゃんに好きって言ってもらえたら、幸せかなぁ、なんて……」

 そう消え入るような声で言った女の子は、失敗した、というような表情で顔を真っ赤にしている。彼も、女の子の意外な返答に驚いてはいるが、女の子のように取り乱してはいない。

「穴があったら入りたい。今の忘れて」

「無理無理。夜船がこんなに可愛いこと言うなんて滅多にないからね。ついでにその表情、写真に撮らせて」

 机からスマホを引っ張る彼を一生懸命睨みつつ、女の子は「可愛い」と言われたことで、さらに上気していた。耳まで真っ赤に染め上げて、彼はさながら萩や牡丹のようだと思いながら、次々とシャッターを切っていく。

「ミッちゃんやめてぇぇぇぇ~!」

 恥ずかしさが頂点に達したのか、女の子はとうとう泣き出してしまった。


「ごめんごめん。そうだ、そろそろ誕生日だろ? なんでも我が侭聞いてやるから機嫌を直してくれ」

「うぐっ、……本当? じゃ、じゃあ、考えておくね」

「僕にできることにしてくれよ」

「分かってるって」

 このときはカレンダーを確認していないので分からなかったのだが、今年の女の子の誕生日はちょうど秋分の日であるためにお休みであり、一日中付き合わされることになるのだが、それはまた別の話。

 北窓夜船……おいしそうなお名前ですね。

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