第一話 「はじめまして。不安です。」
電車の中はガランとしていて、この車両には俺以外に老人が二人しかいなかった。
俺は入ってすぐの向かいにも隣にも誰もいない席に座った。
電車は一定のリズムを刻みながら窓の景色を変えていく。
大きなマンションやビル、大きな駅などが見えてきて景色が少しずつ都会の雰囲気になってきた。
だんだん車内は人が増えてきた。人が多いところでは少し気分が悪くなる。色んな匂いが重なって、変な匂いになるからとか、何を考えているのかわからない人しかいない場所は、少し怖い。
一時間ほど経っただろうか。月山駅に着いて息苦しい電車を降りる。
が、自分の周りにいる人の数はそれほど変わらない。
急いで改札を出る。そして駅員に山城家の住所への行き方を尋ねた。
「ここから結構近いよ。ほら、この道をずっとまっすぐ行って、駅を出たら信号を渡って右に行くんだよ。そしたら2個目の信号を…」
と、長い説明をなんとか覚えその通りに歩き出した。
人が多いのは駅前の大きな道だけで、少し入っていった道にはあまり人はいなかった。
とは言っても駅前の人の量よりという意味で、10秒に一回は人とすれ違うくらいだ。
説明通りに歩いて5分ほど。
視界の左側にでっかいマンションが入ってきた。
「ここ…だよな…」
ばあちゃんのメモには405号室と書かれていた。
「よし……」
ガラスのドアの目の前に立ち、深呼吸をした。
0〜9の数字が書かれた機械板に405と打ち込み、呼び出しと書かれたボタンを押した。
数秒の間。この間が俺には1分ほどに感じた。とても苦痛。
ガチャという音の後に女性の声が聞こえた。女性というより少女の方が適切だろうか。
「…………誰?あなた」
「えっと、ばあちゃ……祖母が死んだらここに行けと言われたので来たのですが……」
「……あー、そうですか。どうぞ」
そのだるそうな態度で歓迎された俺は開いた自動ドアをくぐって4階を目指してエレベーターに乗った。
「上へ参ります」
なんか、不安だなぁ。
うまくやっていける気がしない。
というより山城明月さんはどうしたんだ?どこにいるんだ?いまは仕事か何かなのか?
「4階です」
「うぉっ」
びっくりした。まさか音声ガイドがあるとは思わなかった。乗った時あったか…?あったか。
荷物を詰め込んだリュックくらいの重い気持ちを引きずってエレベーターを降りた。
「405…405……」
「こっちですよ。ちゃんとエレベーター降りたら目の前に401〜409はこっちって書いてあったでしょう」
振り向くと黒いニット帽で黄色い髪の毛を半分隠し、その髪の毛で片目を隠した少女が立っていた。
「ついてきてください」
そう言うと少女は早足で矢印の方向へ歩いて行った。
数秒して立ち止まった。
「来ないんですか?騙したんですか?」
なかなかにうざい。
「あー、行きますよ。騙したわけないじゃないですか」
見た所年下だろうか。まあ幼いなと見下しておくか。
409、408とカウントダウンしていき、405号室の目の前で少女と俺は立ち止まった。
少女は扉を開けて、中へどうぞと手を入り口へ広げていた。
「はやく入ってくださいよ」
いちいちむかつくな。
「おじゃまします」
「おじゃましますなのかな」
ボソッと言いやがって。初めて入るんだからおじゃましますでもいいじゃないか。
ここでの生活がさらに不安になってきた。