みなさま、お手を拝借
宴会の雑学として、コラム用に以前書いたものです。ジャンルはとりあえずエッセイにしてますが、ウンチク記事なのでちょっと違うかもしれません。
◆宴会には手締めがつきもの
昔と比べれば、減少傾向にあると言われつつも、職場から宴会、パーティの類が消えることはありません。
宴会の中には、忘年会、納会といった「シメ」の意味合いをもつ行事や儀式として行われるものがあります。また、社会人であれば仕事とは別に、結婚披露宴やお祝い会といったおめでたい行事に出席する機会もあることでしょう。
そうした場所で時折見かけるのが「手締め」です。「手打ち」という表現もあるようです。元々取引や商談の成立を祝う意味があるので、年末に熊手や羽子板を買ったときに行われているのを、ニュースで見かけることもありますね。
「手締め」よりも、一般的には「三本締め」「一本締め」という言葉の方がなじみが深いかもしれません。そうです。最後にみんなで手を叩く、アレです。みなさんも何度かは経験されていることでしょう。
◆10回たたいて祝うのが基本
手締めの基本は、
「ぱぱぱん、ぱぱぱん、ぱぱぱん、ぱん」
と手をたたくもの。全部で10回打ちます。9回までは方角を表し、10回目を打つことで「四方八方丸く納まる」というような意味合いがあります。
この形に基づいて、主に「三本締め」「一本締め」というバリエーションがあります。
◆王道は三本締め、簡略化したのが一本締め
三本締めの場合、たとえばこんな感じです。
「皆様、お手を拝借」
「いよおおおっ」
ぱぱぱん、ぱぱぱん、ぱぱぱん、ぱん
ぱぱぱん、ぱぱぱん、ぱぱぱん、ぱん
ぱぱぱん、ぱぱぱん、ぱぱぱん、ぱん
つまり、手締めを3度繰り返すから、「三本」締めですね。
途中で「よっ」とか「はっ」と合いの手のような掛け声が入ることも多いです。
「一本締め」は次の通りです。
「皆様、お手を拝借」
「いよおおおっ」
ぱぱぱん、ぱぱぱん、ぱぱぱん、ぱん
手締めを一度、だから「一本」締め。極めてシンプルなネーミングですな。
なお、「いよおおおっ」というかけ声は、「祝おう」から変じたものと言われているので、「よおお」ではなくちゃんと「い」から発音した方がベターですね。
◆手を一回だけたたくのは何ジメ?
ところが、よく宴会の終了時などで次のような場面を見かけることがあります。
「それでは、最後に一本締めで終わりたいと思います」
「皆様、お手を拝借」
「よおーっ」
ぱん
「ありがとうございます(ました)」
はい。実はこれ、厳密に言えば間違いです。正しい一本締めは、先ほど書いた通り、10回手を打たねばなりません。
「ぱん」
と一回だけ打つ方法は、正しくは、「一丁締め」といいます。
「一丁締め」は、手締めそのものを省略したバージョン、といったところでしょうか。
「三本締め」「一本締め」「一丁締め」の違い、お分かりいただけましたでしょうか。
江戸時代から続くような、伝統のある業界ではこうした締めはちゃんと使い分けていますが、一般には特に「一本」と「一丁」の呼び方が混同してしまっているようですね。
◆手締めを使い分けよう
手締めは三本締めが最も丁寧な祝い方となります。
披露宴や、何かの式典など、正式な場で「一丁締め」を用いるのは非常識となりますので、注意しましょう。
ただし、お店で宴会、のような場合は「一本」「三本」では長いし、他の客にも迷惑になってしまうため、「一丁」にするのが適切だと思われます。
あと、手締めの方法がわからない人が多い場合にも、「一丁締め」は用いられます。
もし幹事になった場合には、こうした「締め方」も意識してみるのもいいかもしれません。
◆空気を読みましょう
でも、せっかく盛り上がっている宴会の、まさに終わろうとしている時に、
「おい、それは一本じゃなくて、一丁だろ」
なんてウンチクをたれるとヒンシュクを買うかもしれませんので、その場の流れにあわせておいた方が賢明かもしれません。空気を読んで判断しましょう。
なお、手締めは東と西で少しやりかたが違うようです。今回ご紹介したのは、東(江戸)のやりかたですので、あしからず。