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「お嬢様、お足元にお気をつけ下さいませ。」
馬車は歩みを止め、ジャムスにより扉が開かれた。
「わぁ…凄い綺麗…。」
登城するのはアリアの記憶の中では初めてである。
幼い頃、父に連れられて来たことがあると聞いたことはあるが、覚えていない。
目の前にあるのは豪華絢爛、アスピアの豊かな資源と財力、平和の象徴である大きな城。
幾多の兵を抱え、他国に対し絶対的な力を見せつけてきた。
しかしながら、自分たちの利益のために戦を仕掛けることはなく、自国の民に危機が及んだ時のみその猛威をふるった。
王はとても賢く、忠臣が多い。
王は民を愛し、民は王を愛する。
この理想的なまでの大国の拠点、中枢。
それがこの壮大な城である。
「アリア!」
振り返れば友達のシンシアとフラン、アメリアだった。
「まぁアリア、とても素敵なドレスですわね!見違えましてよ。」
フランはうっとりとした顔でアリアを見て、目を輝かせ、シンシアはニヤリとしながらアリアを見る。
「今日くらいレディになってもらわないと困るわよねぇジャムス。」
「シンシア様、フラン様、アメリア様、ご機嫌麗しゅうございます。」
アメリアはそんなやりとりを楽しそうに笑う。
「みんな可愛いドレスねー。私もレース増やせばよかったかしら?」
「まぁ珍しい。アリアの口からレースを増やせばよかったなんて。レースが邪魔ならよく聞くけど。」
「本当ですわねー。私の知る限りだと今までなかったと思いますわ。ねぇ、アメリー?」
「そうね。アリアはフリフリ好きじゃないものね。」
「さてはあの噂ね。初恋もまだのアリアなら憧れても仕方ないわね!」
「みんな言いたい放題ね。どこで出逢うなんかわからないじゃない。お父様もリディスもいないから今日くらいしか……。」
「今日出会った人と恋に落ちて、生涯を供にとか言わないでよ。アリア。」
シンシアは毒づくこともある辛口で負けん気が強く、フランはほんわかした生粋のお嬢様、アメリアは冷静沈着な理知的才女。
アリアにとっては気の置ける優しくて付き合いやすい友達である。
「お嬢様方、そろそろご入場の時刻でございます。」
ジャムスが全員分の名前を記入し、四人に移動を促した。
中に入ると煌びやかなシャンデリアや絵画などが並び、正装をした男女が大勢いた。
皆アリアと同い年。
しかし、背の違いもあってアリアにはまるで大人の世界だった。
「何だか人が多いですわねー。酔ってしまいそうですわ。」
「みんな気合い入ってるんでしょうね。適当に流せばいいわ。」
シンシアとフランはうんざりとばかりに グラスを傾けつつ人だかりの中に入ろうとはしない。
「やっぱり私、苦手だわ。」
アメリアは人付き合いが苦手であるため、ため息ばかり吐いていた。
「さて、アリアに良さそうな人でも探しますか。」
「そうですわね。アリアの初恋を応援するのも友の役目ですもね!」
「ちょっと勝手に話を進めないで頂戴!」
広間の中央より大きく逸れ、人がまばらな場所を見つけて落ち着いた。
さっきからチラチラとこちらを見ている紳士もいるが、四人で固まっていると話しかけづらいのであろう。
さらに、この四人の父は全員が王に仕える程の身分。
自分の家より階級が上の家の娘には迂闊に近寄れないものだ。
「でも、アリアのタイプご存知?シンシアもフランも。」
「そう言えば聞いたことなかったわね。フランは?」
「私リディスのことが好きなのかと思ってましてよ。」
「リディスは無いんじゃない?いつも怒ってばかりじゃない。」
「ちょっと何でリディスが出てくるのよ。あいつは悪党よ悪党!悪魔なの!」
「じゃあアリアのタイプは?」
「私のタイプ……。」
アリアは今までタイプというものを考えたことがなかった。
今時珍しく純情である。
「アリアはお人形みたいなのに鬼のように怖いからねぇ。相手も余程強くないと。」
「まぁ、シンシア!それですわよ!それ!強いと言ったらやっぱり軍の方?」
「それはダメよ。おじ様がお許しにならないでしょう。ここはやっぱり若い賢者様が…。」
「賢者がタイプなのはアメリアだけよ!全く。」
「あっ宰相の方に仕えてらっしゃる騎士様はいかが?」
「あのフランシス家の?それこそおじ様がお怒りになるわ!」
アリアを除いた三人は勝手に盛り上がっていた。