成人の儀
「このドレス、ちょっと地味だったかしら?」
ところ代わり、馬車の中ではアリアがそわそわと自分の身なりを心配している。
「もう少し派手でもよかったかしら?せっかく一生に一度のことなのに。はぁ、失敗だったわ。」
アリアのドレスは胸元が広く開き、足元にも少しスリットが入ったカクテルドレスに近い、実にシンプルだった。レースをふんだんに使ったドレスやもっと手の込んだドレスもあったのに、何故かアリアはこのドレスを選んだ。
好きな色だったと言うのも理由の一つではあるが、一番ピンときたのである。
普通、貴族の娘はレースなどが多い豪華なドレスを選ぶのだが、アリアはその性分からか動きやすいか否かという実用性重視で選んできた。
社交界やパーティーなどの場にはそれなりで行くのだが、自身としては好ましく思っていなかった。
アリアは父が軍人と言うこともあるが、おしとやかなで優雅なお嬢様とは縁遠い娘なのだ。
周りの友達はそれもアリアの良さと言うが、¨剣技の心得がある貴族の娘¨はアスピアではただの変わり者に過ぎない。
「今夜はおしとやかに振る舞わなければいけないのよね。お父様のためにも。」
自分に言い聞かせるように、絵に描いたようなレディを演じるようにわざとらしく座り直す。
父の体裁もあるが、なにせ噂囁かれる成人の儀。
「素敵な人に出逢えるかしら。」
どんなにおてんばでも変わり者でも、心の中は乙女である。
初恋もまだ経験がない。
今までそのように異性と出会うことはなかったし、社交界やパーティーでも、父やリディスが隣にいるため誰も近寄っては来なかった。
「お父様ったら本当に鬼なのかしら?」
アリアは父や幼なじみのせいだと思っているが、実のところ周りが近寄って来ないのはアリアの容姿のせいなのだ。
人形のように美しく、笑顔を振り向けば異性だけでなく同性までもが心をときめかせる。
それは憧れと共に何か近付いてはならない、汚してはいけないと言った恐れでもあった。
陶酔する程の溢れんばかりの魅惑は時に畏怖の対象ともなる。
貴族の娘とするには勿体無い程賢く、黙っていれば深窓の令嬢とも見える可憐さ。
一度笑顔を振り向けば忘れられぬくらいの美貌。
自身ではそんなことつゆにも思わぬアリアは周りが勝手にする彼女への評価を知らなかったのだ。
周りから自分がどんなに羨望の眼差しで見られているのかも。
最も、普段のアリアを知る者に言わせれば、その姿は仮の姿なのだが。