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「貴殿が……。」
背が高く、細身だが肩幅はあり、洗練されていると言う言葉が相応しいのではなかろうか。艶めかしく長い黒髪、血が通っているのかと疑問が浮かぶ程の色白の肌、冷ややか且つ抗えない程に力を持った切れ長の目。造型のどれもが美しく、絵画や彫刻、人形を彷彿とさせた。貴族らしい仕立ての服にやおら漆黒のマントを羽織り、魔王とさえ思える程のオーラに圧倒される。
「いかにも。我が城へよくぞ参った。して、言付けとは何かな?こちらにも用意があるゆえ手短にお願いしたい。」
城主の声言葉にある者は畏怖を、ある者は威厳を、またある者は恍惚を、して隊を率いて参上した代表の男は緊張と押し迫る程の殺気に身震いした。
「へっ陛下より、フェルンセン公爵に今宵の儀へ必ずや列席頂くよう仰せつかっております。言付けとは、昨晩アスピア国最高顧問であるマダムフェンディ様よりお告げが伝えられました。成人の儀にて、アスピアを揺るがす月女神リーシアが現れると。陛下は公爵様にそのリーシアを見つけて頂きたいと申されておいでです。」
「ほう……リーシアが現れると?信心深いのはあっぱれだが、私の記憶が間違いでなければ、200年も前にリーシアとなりうるはずだった女は死んだと思うが?」
公爵はドアにもたれかかり、腕を組む。相談役の男は是が非でもこの場から逃げ出したい気持ちになった。
「月女神リーシア。その者の涙は宝玉となり、その者の声は薬とも言われる。しかしながら一度怒らせれば大国すら一日の間に滅ぼす力を持つと言うあの……?」
「あぁ。その伝説は半分嘘で半分真だ。聡明で麗しく、一国の主に国を傾けさせる程の美貌を持って居たとされる。今もその子孫が存在すると言われている。何百年かに一度、その女と同等の力、美貌を備えた者が現れ、この世に平穏と秩序を与えると言われてる。ヴィクトールには話したことがなかったな」
「力……?」
「その先はこの私が。先程公爵様が仰った通り、それが月女神リーシアの実態です。そして、その者が持つ力こそ我々が恐れ、憧れてもいる絶対的な力。月の加護を得ることで闇と光を共に携えることが許されるのです。」
「……魔女のようですね。」
ヴィクトールと呼ばれた使用人はニヤリと口元を緩め、先程応対していた冷たい男と同じだとは思えない程嬉しそうに城主と話している。得体の知れない黒城の主たちに兵たちは圧倒されるばかりであった。