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黒い城

アスピア国から近い森の中、その古めかしい城はある。王城のそれよりは大きくないが、その存在感は計り知れず、蔦がうっそうと茂るその城壁の様も相まって重厚さは引けを取らない。古めかしく、しかし洗練されていて、見るものを畏怖の境地へ導くその黒い城は真っ白な白亜の王城と対かのよう。

広大な土地には数多の木々が生い茂り、そのすべては黒城を隠すかのように外界と一線を置いているようにも見える。


そこには昔から使用人数人と、一人の主が住んでいた。……最も、人と呼べるかは定かではないが。



「本日、アスピア国城内にて成人の儀が執り行われます故、陛下より言付けを預かり参上した次第であります。」


王付きの相談役の男が緊張した面もちで大きなドアの前に立ち、その近くには幾人かの兵が控える。大きな声で敵意が無いことを表し、見るかに大きなドアに取り付けられた高そうな純金製のノッカーを打ち付ける。通常獅子や天使などの型が多いにも関わらず、ここのノッカーは悪魔のような型に見え不気味さが増す。ごくりと喉を鳴らし冷や汗がドッと吹き出る中、職務を全うするべく、裏返らないように大きな声で案内を乞う。


「どうか、城主にお目通り願いたい。」


しんとした中、重々しい音と共に重厚な扉が開き、中からは男女の差もわからぬ美しい者が姿を見せた。

日に当てられキラキラと輝く長い銀髪を一つに後ろで結び、滑らかに白い肌、全てのパーツが均等に配置してある顔が隠そうともせずにやおら不愉快そうに歪んだ。


「じょ、城主殿で……?」


兵たちは呆然と目の前に姿を見せた冷ややかな目を寄越すその人を見つめていたが、口火を切った男は任務遂行のため恐れながらも話しかけた。その気位にふうんと面白そうな顔を一瞬見せ、また先程と違わず冷たい表情に戻ったその者は凍えるような低い声で応答する。


「これはこれは。なんと珍しい。何年ぶりか……城主には私から伝えておきましょう。書状をこちらに。」


ハッとした兵は、またもごくりと喉を鳴らすと、今度は盛大に声を上擦らせながら、先程よりもしっかりした口調で願い出た。


「いやはや失礼。私は城主殿にお会いしたいのです。陛下より直接お渡しするようにと仰せつかっておりますゆえ。」


二人のやり取りに、後ろに控える兵たちはごくりと喉を鳴らした。


「はぁ……。城主は人見知りでしてね。陛下もご存知のはずでは?もう何年もアスピアの城には登城しておりません。……それに今宵開かれるパーティーのお誘いが当日とはいささか急な話にございますね。……我が城主を愚弄しておると捉えられても仕方ないとは思いませんか。」

「そ、それは重々承知しております。しかし、陛下直々のご指名。何卒ご無礼をお許し下さいませ。愚弄しているわけでは毛頭無く、天啓がありましたため、致し方なく……。」

「城主が何と言いますか……。成人の儀など毎年行われるもの。しかしながら私の知る限り何年も誘いは無かったと思いますが?」


釈然としないと言いたいような表情で王直々だという遣いを見やる。明らかに分が悪いと悟っている兵の中には、久しく経験の無い実戦かと覚悟を決め始めた者も出てきた。


その時、応対していた男の後ろに別の気配がした。


「王の言付けとは何だ?」


「!……レオン様、お体はもういいのですか?わ、私が対応いたしますのでお手を煩わせるわけには……。」


レオン様と呼ばれた男は姿こそ現さぬが、威厳が感じられ空気がピンと張り詰めた。見ているわけでも無いのに明らかなる強者のそれを感じる程に。


「構わぬ。我が名はレオンハルト・ルシエロ・フェルンセン。この城の主だ。して、私に何のご用かな?」


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