prologue
……もう何年経ったのだろうか。
……―いや、何百年か。
私を恐れ、憐れみ、それでも慈しみ、理解し、愛してくれた彼女を失って。
ただそこに居てくれれば良かった。
最初こそ私に敵意を持っていたことは知っていた。何度も何度も向き合い、己が全てを打ち明け、共有し、戸惑いの中で互いに互いを理解しようと模索し、唯一であることを認め合い、愛しているという言葉では片付けられない、綺麗なものだけでは説明することが出来ないほどの渇望を抱きながら互いを欲した。
底知れぬ愛情を他者に抱くことができるということを彼女が、彼女だけが教えてくれた。全てが色鮮やかに輝き、氷のように閉ざされた暗い心が赦されたような気さえしたのに。
自分と彼女に流れる時間のズレが少しずつ互いの仲を阻み、彼女の憂いが大きくなり心を病んでしまった。気付いた時にはもう彼女の心は弱く、脆く、彼女の身体は持ち堪える事が出来なかったのだ。
今もこの手に残る彼女の最期の温もりが、瞳に焼き付く美しい姿が、耳に残る儚い鈴のような声が。絶えることなく続く永劫とも言える時間の中で、延々と私に絶望を与え続けている。
彼女は私にとって最愛だった。
彼女がいれば幸せだった。
彼女を誰より愛していたし、何にも代えられない唯一だった。
それこそ自分すら容易く差し出せる程の。
……それなのに彼女は最期に私に微笑みながら言ったのだ。絶望させるに足る呪いの言葉に似たものを。
¨……―時が来たら、あなたはまた誰かを愛するでしょう?きっと私へのその愛すら超える程の。そうあるべきなのよ……でもね、それまではお願いだから、私だけの唯一でいて欲しいの。時がきたら認めるから。きちんと諦めるから。渡すから。だから……。―……¨
それは、この先解かれることのない呪文のようだった。
鮮やかな深紅の血に塗れた生気を失った真っ白な手が頬を撫で、ガラスのような涙を流すその辛そうな瞳を、表情を、必死で紡がれた言葉を聞き漏らすまいと抱き留めた私には聞こえたような気がしたのだ。
¨……―…それまでは私を…忘れないで。一人にしないで―……¨と