聖女を虐げた愚かな国
胸糞。
閲覧注意。
公爵令嬢ウヌレボは聖女である。
国の高貴なる女性が代々選ばれる聖女システムに、公爵家の令嬢が選ばれるのは自然な摂理であった。
聖女は国に恵みをもたらし、魔物から民を守る結界を張る役目を持つ。そのため、王となる者は必ず聖女との婚姻を義務付けられていたのだ。
ウヌレボも王子イグリスとの婚約が、聖女に選ばれた日より決まっていた。
しかし、イグリスはメイドのキリネを寵愛し、常に隣に侍らせていた。
キリネは卑しい平民の村娘である。そのような女が何故王宮のメイドになれたかは不思議ではあるが、ずる賢い人間が得をするのは何処の世界も同じなのだろう。
そして、ある日の夜会で事件は起こる。
「公爵令嬢ウヌレボ! 出ぇえい!」
馬鹿面で隣にキリネを侍らせたイグリスがウヌレボを夜会の表舞台に引きずり出す。
キリネは横でニタニタと笑みを浮かべている。本来なら平民など足を踏み入れただけで死罪と一族郎党皆殺し連座なのに。メイド服のまま······あくまでイグリス付きのメイドと言う体で。
王子付きで突っ込むなかれ、平民が王族に仕えるメイドになる事自体が有り得ないのだ。
平民上がりのメイドは、貧乏で貴族出身の使用人も雇えない貧乏男爵家か成り上がり商人に仕えるのが関の山だからだ。
「四つ! 貴様に言いたい事がある!」
(四つって······馬鹿は要点をまとめられないから馬鹿なのよね)
ウヌレボは前世の記憶がある。
地球の日本の東京の丸の内のOLで、誰にでもできる仕事では無い替えの効かない仕事をしていた。
国立大も出ている。
しかし、無能な上司や同僚に追い詰められ、愛嬌しか無い腹黒い若い後輩を泣かせたと言う理由でオフィスで孤立し過労死した。
そして、この世界に転生したのだ。
「まず一つ! 貴様との婚約を破棄するぅう!」
イグリスはドヤ顔で声を高らかに宣言する。
ウヌレボは前世の勘違いナルシスト男が良くしていた顔だと笑いを必死に堪える。
「理由をお聞かせ頂いても? この婚約は王命。 貴方の意思など介在しないはずですが?」
「貴様はキリネを平民と言うだけで虐げた! 許せん! 万死に値するうぅううう!」
(一々、大袈裟に言わなければ気が済まないのかしら? この男は)
「······まず、そこの平民を虐めるなどと言う行為はしておりませんわ、下等生物に関わってる時間が惜しいので。 それに、公爵家の権力を使えば平民のメイドなど誰にも知られずに物理的にも社会的にも消せますのに」
「 おお······! 認めたなぁ! ウヌレボよ! 万死に値······」
(脊髄反射しか出来ないのかしら?)
「殿下。 お話が進みませんわ。 それで? 二つ目以降は?」
「キリネと婚約を結び直すものとするぅう!」
「殿下ぁ······! キリネ、嬉しいですぅ!」
会場は騒然とする。 侯爵、伯爵令嬢······いや、この際ではあるが、他国の王女クラスでも禁忌な状況で、子爵、男爵令嬢でも顰蹙を買う状況、あろうことか平民の······メイドと来た。
ウヌレボは呆れ果てて、暗黒微笑を少しひきつる程だった。
「······殿下? 気は確かでして? 平民と貴族が結婚など出来るはずが無いではありませんか」
「構わん! 我が許可するぅう!」
「······殿下ぁ······!」
お前が許すとか、そう言う問題じゃないとウヌレボが言おうとした瞬間、キリネはウヌレボの方に顔を向ける。
ニチャリ。
(あらあら)
キリネはウヌレボにしか見えない角度で、口が裂けんばかりの笑みを······男達が守りたくなるような可憐な顔で、その性格を写したかのような醜悪な顔を露にする。
(もう勝ったつもりなのかしら? 可愛いわね)
平民メイドの運命は決まった。死んだ方がマシと言える程の苦しみを与えられた後に八つ裂きにされる······故郷の村も連座で皆殺しにされ、焦土にされて地図から消える。
公爵家を敵に回すとはそう言う事なのだ。
「······それで? 三つ目は? 」
「顔が怖いぞ? 少しは落ち着け、キリネが怖がるだろう」
(どうでも良いけどね)
「その婚約破棄······ちょっと待った!」
会場のギャラリーを掻き分けて現れたのは、隣国の王太子レカダリであった。
「誰だ! 貴様は! 部外者は引っ込んでろ!」
(どの口が言うのかしら)
他国の王族よりも、遥かに場違いな畜生もどきを隣に侍らせていると言うのに、とウヌレボはこんな頭の悪い生き物の存在に辟易とする。
令和にもヤバいのは居たが、誰も意見を出せずにイエスマンばかりで固めた馬鹿王子の方が遥かにヤベーよな、とウヌレボは嘆く。
「いらないなら俺が貰うよ? 良いよね?」
会場は色めき立つ。愚か者どもに陥れられた公爵令嬢が白馬の王子様に求婚されたのだ。
「だから、誰だ貴様は!? 」
「イグリス殿下······口は慎みなさい? レカダリ殿下の国はウチの国なんて滅ぼせる大国なのですよ?」
愚かな王子に代わり他の貴族達が震える。
頼むから余計な事は言わないでくれ······と言う祈りだ。
「ウヌレボ嬢。俺の番として生きてくれないか?」
「勿論。喜んでお受けいたしますわ」
パチパチパチパチ。
会場は祝福の歓声と拍手が鳴り止まない。
梅雨の雨のようだ。
(さて、潮時かしら?)
華やかなシャンデリアの下、ウヌレボは扇で口元を隠し、勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「さようなら、イグリス殿下。どうぞその、慎ましやかなメイドさんとお幸せに」
ウヌレボが隣国の王子レカダリの差し出した手を取ると、会場からはどよめきが上がった。窓の外で、国を護る「聖女の結界」が目に見えて霧散していくのが見える。
「私が居なくなれば、この国は魔物の餌食。せいぜい悔い改めることですわね」
ウヌレボは、レカダリと共に悠然と出口へ向かった。背中にはこんなはずではと後悔している馬鹿王子イグリスの間抜け面と、怯えながら肩を揺らす泥棒猫のメイドが居ることであろう。
(精々お幸せに······地獄でね)
ざまぁがここに成った!
だが、扉へ手をかけた瞬間、背後から場違いなほど平坦な声が響いた。
「あれ? おかしくない?」
ウヌレボが振り返ると、そこにはキリネが立っていた。庇護欲を誘う可憐な少女の顔ではない。そこにあるのは、冷徹な判官のような眼差しだった。
「民が魔物に殺されると知りながら、聖女の義務を放棄して他国へ逃亡する······う~ん」
「……は?」
ウヌレボの思考が停止した。キリネの言葉を合図に、周囲の貴族たちが「そうだ!」「ふざけるな!」と一斉に罵声を浴びせ始める。
「黙れ······平民。発言を許可していない、俺のウヌレボを傷つるものは······殺す!」
隣ほレカダリの言葉に、キリネはくすりと笑った。
「レカダリさんは生まれの卑しさがなぁ~」
「······なっ!」
「ぶ······無礼者! レカダリ様はこんなチンケな国滅ぼせるのよ!」
ウヌレボは叫ぶも、レカダリは図星なのか鳩が豆鉄砲を食らったような顔だ。
「男爵家の側室腹なんだよね?」
「だから何だと言うの? 虫ケラぁ! 」
ウヌレボは反論するも、レカダリ本人の動揺の仕方からして事実なのだと会場の貴族達は悟る。
キリネに対する 「お前が言うな」 と言うツッコミを忘れるほどに。
「思い出したぞ! 三つ目の言いたかった事はこの男の排除についてだ!」
「本国で、東の島国から嫁いだお姫様が男の子を産んじゃったんだよねぇ~······だからアンタもう要らないって魔法通信来てたよ?」
ガクリ······膝から崩れ落ちるレカダリ。
キリネの目は真っ直ぐ、ウヌレボを見据えていた。
逃がすわけが無いと······
「ま······待って······私がいなければ結界が……!」
「四つ······一人の力に依存する体制など、このような事態が起これば瓦解する。避けられぬ事だったのかもな」
悲鳴を上げるウヌレボに、イグリスが吐き捨てるように告げる。
いや、お前のせいだろと言う批判はこの際、言うまい。
「バイバーイ、ウヌレボちゃん」
「い······嫌! いやぁあああ! 止めて! 一生かけて償うから!」
「殺れ」
兵士達の長槍により、ウヌレボとレカダリは全身を貫かれ命を終える。
ウヌレボが最期に見た光景は、キリネの勝ち誇った満面の笑みであった。
「民を傷付ける者は許さん······絶対にな!」
イグリスはキリネをギュッと抱き締め、永遠の愛と王の名乗りを上げたのであった。
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その後、聖女システムを廃止し、組織を重視したシステムに置き換えたイグリス。
魔物の被害は聖女時代より遥かに減り、名君と呼ばれるようになった。
王妃となったキリネと共に国を守り続けたと言う。
fin.
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数百年後の王国
王都のテレビ局
「どすか?」
「どすか? じゃねーわ。ボツだよカス。何だ? この歴史考証メチャクチャなクソ脚本はよ? ただでさえ視聴率ヤベーのに王族からも睨まれたら終わりだぞ!」
「聖女キリネが実は悪女説面白そうなんだけどなぁ······」
「まぁ、確かに、この次期の大国の王、女遊びが激しくて、早死にした王子は居たけどさ······」
「公爵家の令嬢も同じ時期に病死って怪しくないっすか?」
「あー! もう! 良いから書き直せよ! 今回ダメなら俺の首飛ぶんだからさ!」
歴史は勝者が作る
お読みいただきありがとうございます。
少し後味の悪い展開になってしまいましたね·····
ウヌレボは前世も今世も優秀だったのですが······
脚本家くんは後日、急に退社し蒸発。SNSも削除した模様。
······されたのかは不明。




