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悪役令嬢のごとく婚約破棄をしたいと、幼馴染と約束したのに、婚約破棄してくれない

掲載日:2026/04/08

 婚約破モノ、それは、あるネット小説投稿サイトで流行った異世界恋愛での定番設定だ。

 婚約破棄されたヒロインは、別の王子様に見初められて、婚約破棄した側は没落してザマァするという愉悦を味わうというスカッと気分にまみれた手垢塗れの展開だ。

 当然ーー


「わたしも、婚約破棄したーい」


 幼い幼馴染は、そう言った。

 しかし、現代っ子の俺たちにあるのは、婚約破棄も許婚も存在しない、自由恋愛のマッチング地獄ルッキズム社会だった。

 そんな令和な恋愛条件のなかで、僕はーー。


「分かった。僕と婚約しよう。それで、高校生になったら、破棄しよう」


 小学生の僕たちは、みんなに婚約しました、と言った。

 みんなって誰かって、そんなの手当たり次第に周囲に、だ。先生から同級生から親からご近所さんまで。田舎って素晴らしい。勝手に噂が広まるから。


 ーー僕は幼馴染と婚約を約束した。




 あれから、十年、は経ってないけど、高校生になった。


「そろそろ、いつでも婚約破棄プレイをしてくれていーんだぜ」


 僕はちょうど机の後ろに座っている幼馴染に言った。彼女は、くせっ毛にストレートパーマをかけているけど、伸びてきて、またちょっとウェーブがかかりだしていた。

 

「そんな恥ずかしいこと、思春期の女子高生ができるtと思う」


「俺たちの幼い頃の大事な約束じゃないか」


 婚約して、そして、それを破棄する。

 僕と幼馴染との最初の約束だ。

 僕は初恋だったと、銃撃する某正義の味方のように、苦渋の決断で、幼馴染との婚約を破棄するんだ。

 ああ、なんて美しいんだろう。


「婚約破棄は、なかったことにしよう」


「そ、そんなっ」


 僕はそれだけを楽しみに、幼馴染と幼馴染していたのに。この関係が破綻する、そのデストロイが、カタストロフを生むと。

 幼馴染との熱いギスギス、昼ドラよりも激しい愛の銃撃戦を夢見ていたのに。


「婚約破棄しないなんて、もう僕にはできない。僕は約束を守る男だ」


「その誠実なアピールが、ここまで不誠実だなんて考えなかったなぁ」


 幼馴染は、僕の決意を何吹く風だ。

 幼馴染は、このまま自然結婚を求めている。恋愛自然消滅の法則のように。

 いつの間にか、結婚してました展開なんて、そんな幸せな成り行きに任せてなんて、僕の純愛の葛藤ハッピーエンドに反する。

 愛には、葛藤がいる。愛は、到達するモノなんだ。流れに身を任せて結婚はあり得ない。障害が、愛を育む。よって、幼馴染は負ける。


「僕はぽっと出のヒロインを探しに行く」


 僕は、教室の窓から飛び降りた。あいにくと、一階だ。

 僕は知っている。幼馴染は負けヒロインだと。

 幼馴染は絶対に負ける。

 そう、約束したんだから。




「僕は真実の愛を知ったんだ」


「僕は、目が覚めた。君こそが、最も美しい」


「僕は、君の瞳に恋している」


 手当たり次第に、突然発生ヒロインを探した。

 しかし。

 うん、全員に振られた。

 僕の何が駄目なんだ。みんな、彼氏がいる男がそんなに嫌いか。

 いいじゃないか、二股は統計的にあり得る。

 誰か、僕を幼馴染から奪うつもりはないのか。


「諦めなさい。もう、無理だから。誰もあなたを愛さない。わたし以外ーー」


「僕は、お母さんと結婚する」


 パパと結婚するという娘が許されるなら、許される。


「マザコン」


 僕は、そのひと言で目が覚めた。

 さて、バカなことはやめよう。幼馴染が、これだけ愛をささやいているんだ。


「だが、断るっ!」


 僕は婚約破棄する。婚約破棄してからじゃないと結婚はしない。

 これは男の意地だ。





「だからって、幼馴染の親友に、白羽の矢をたてるかな」


「もうね、演技でもいいから。僕と、デートして、自宅にご招待して、両親がいない日に、泊まっていって」


「既成事実で、わたし、本当に弓矢で刺されないかな」


 ああ、可愛いなぁ。猫耳をつけて、メイド服を着せて飼ってあげたい。

 そうだなぁ。白猫がいいなぁ。白いネコミミは、どこにあったかな。


「ねぇ。なんで、こんなにこじれてるかなぁ」

 

「結んだ糸は解かないといけないからね」


「解き方が、めちゃくちゃなんだよなぁ」


 僕は婚約を破棄する人間なんだ。

 そこに愛がある。


「幼馴染の寝取○れ願望を叶えて上げないと」


「わたしの親友を、変な性癖の女の子にしないでくれる」


「いや、婚約破棄は、潜在的なドM寝取○れ願望だよ」


「あはは、わたし、きみのこと嫌いだなぁ。親友が可哀想」


 しかし、どうやら幼馴染の親友は、僕と真実の愛を演じてくれるようだ。

 僕は、今、ついに、幼馴染との約束を叶えて上げられる。




「僕は、気づいたんだ。真実の愛に」


 教室の教壇で、僕は叫んだ。


「君との婚約は解消する」


「そ、そんなっ」


「君にはガッカリだよ。まさか陰で親友に嫌がらせをしていたなんて。こんなに可愛くて、優しい、女の子を」


「そんなこと、してない。わたし、知らない」


「証拠はあるんだ。みんな、君が親友に陰湿な行為をしていたと証言している。この前も、突然後ろから抱きついて、胸を揉んでいたそうじゃないか」


「それ、わたしがやられたお返しなんだけど」


「ええいっ。とにかく、婚約破棄だ。僕は、この子と幸せになる」



 『以上、1年F組、「婚約破棄されたけど、どうやらわたしの夢オチだったようです」の公演を終わります』





「なぁ、幼馴染よ」


「なんだい、幼馴染よ」


「演劇落ちなんてサイテー」


「まだ、婚約破棄は始まったばかりだぜ」


「婚約破棄は2回もできないと思うけど」


「転生は何度もできるだろう」


「それ、反論のつもりなの」


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