年賀状のジョー
元日の朝、郵便受けに一枚だけ年賀状が入っていた。
差出人は「ジョー」。名字も住所もない。
赤いインクで書かれた「ジョー」という文字は、妙に力強く、紙の上で跳ねているように見えた。
文面はたった一行。
――今年も、君の一年を見届けるよ。
誰だ、ジョー。思い当たる節はない。けれどその年賀状は、なぜか捨てられず、僕は机の引き出しにしまった。
その年、不思議なことが起きた。朝、遅刻しそうな日に限って電車も遅れた。失敗したと思ったプレゼンは、なぜか好評だった。コンビニで買ったくじが、三等に当たった。ささやかだが、確実に「ツイている」。
翌年も、年賀状は届いた。
――大丈夫。まだ道は続いてる。
ジョーは相変わらず、名字を名乗らない。
けれど僕は、彼が僕の一年を知っている気がしてならなかった。
落ち込んだ年には「焦らなくていい」、挑戦した年には「いい顔してる」と、短い言葉だけが添えられていた。
十年目の元日、僕は決意して返事を書いた。宛先は空白のまま、「ジョーへ」とだけ書いて、短い問いかけの文章とともに投函した。
――君は誰だ。
その年の暮れ、返事は届かなかった。
代わりに、元日の朝、いつもより厚みのある年賀状が一枚入っていた。
――僕は、君が諦めなかった可能性だ。
――年に一度しか会えないけど、忘れないで。
年賀状の裏には、僕が選ばなかった道の断片が、細い文字でびっしり書かれていた。別の仕事、別の恋、別の街。どれも、確かに「僕」だった。
僕はそっと年賀状を机に置いた。外では初日の光が差し込んでいる。今年も、歩いていけそうだ。
郵便受けは空っぽだったが、確かに、ジョーはそこにいた。




