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第五話

大勢の子どもたちが壁となり、僕たちの行く手を阻む。くっ、あと少しだったのに…。僕は、弱いっ!!えっ?どんな強敵と戦っているのかって?そりゃあねぇ?何とも戦ってませんよ。


あれだよあれ。それっぽい言葉を発してみたくなったから、やってみただけさ。そこまで今のに深い意味はない。まぎらわしいことをするな?異能バトルものが始まったと思った?


はい…すみません。あっ!!でも、困ってるのは事実なんだよ。人が多すぎて、全然自分たちの番にならないのさ。というかすごくない?入学式でジュースを配るのもそうだけど、こんなに人がいるのにごった返してないんだよ。


普通の小学校で同じことをやったとしたら、同じような状態にはならないと断言できるね。やっぱり先生の質がいいのかな?それとも生徒のレベルが高いのかな?まぁたぶん先生がすごいんだろうけど。


どれだけ凄かろうと、しょせんは六歳児だ。それに僕みたいな達観した精神を持ってる六歳児がそこら中にいたらたまんないよね。


「橘皐月、貴方は何を頼むのかしら?今後の参考にしたいから、教えてもらえるかしら?」


このバカお嬢様はなにを言っているのかな?僕が選んだ飲み物を今後の参考にする?いや、理解不能でしょ。僕の選んだ飲み物が何の参考になるの?


というか僕が頼む飲み物を聞いて、内容によっては笑ってやろうとって感じの欲が見え透いているよね。あんまり僕の頭脳を舐めないほうがいい。痛い目に遭うからね。まぁ六歳児の頭脳なんだけど。


で、結局言うのか言わないのかだけど…僕は優しいので教えてあげます。まぁバカにされたら、それっぽいことを言ってわからせよう。まだ子どもだし、それでいけるだろ。


「僕は…そうだね。オレンジジュースかな?あの甘い味の中に存在する酸味がすごく美味しいんだよね。」


そんなことはみじんも感じていないが、オレンジジュースについてそれっぽいことを語る。フッとこちらをバカにするような笑みを浮かべる詩織ちゃん。


「しょせんは庶民の舌ね。橘家嫡男の名が泣いているわよ?私は採りたてのりんごをその場で搾ってもらうわ。」


このバカお嬢様はなにを言っているのかな(本日2度目)?りんごを搾ってもらう?いやさ、ここは家じゃないんだよ?そんなことできるわけないじゃん。


できたとしても、採りたてのりんごがないよ?詩織ちゃんはそのことを理解していないようだね。まさに箱入り娘というやつだ。これは…伝えたほうがいいやつかな?


大衆の前で恥をかくよりは、ここで恥ずかしい思い出にしたほうが今後のためだろう。心苦しいけど、言わせてもらおう。ほんとに心苦しいけど、言うしかないんだ。断じてざまぁなどとは思ってないからね!!


「たぶんその場で採りたてのりんごを搾るのは無理だと思うよ?」


僕の言葉に、冷静な顔でこちらを見る詩織ちゃん。そして僕が嘘を言ってないことを理解したのだろう。徐々に顔全体を赤らめていった。


✚✚✚


飲み物を受け取ったあと、僕と詩織ちゃんは父様たちが待つ机へ戻った。その時に父様と鈎宮ファザーがニヨニヨしていたのは、見なかったことにしようと思う。僕たちはまだ六歳だよ?恋愛なんてまだ早いっての。


それからは父様たちの話を聞きながら、僕はぼーっとして過ごした。その空気感に馴染めなかったのか、詩織ちゃんはすぐに飲み物を飲み干して、おかわりをもらいに行っていた。


まぁわかるよ?両親と親戚が話してる空気感って、どこか居心地が悪いよね。それに詩織ちゃんは身体も心も子どもだし、その性格上ぼーっとしていることができなかったのだろう。だからまぁ、しょうがないと思う。


会場が突然暗くなる。別に敵襲というわけではない。この世界でそんなことがあったら大問題だ。でも待てよ…この場には金持ちとその妻子が多いから、案外あり得るかもしれないな。まぁでも、今回はそのパターンじゃない。


もう忘れてしまったかもしれないけど、今日は入学式に来たのである。つまるところ、開会の挨拶みたいなのが始まる…と僕は推測した。初めての体験だから、なんとも言えないけどね。


だけど父様たちが姿勢を正してるから、間違ってはいないと思うよ。それに今すぐ答えを求めなくても、どうせすぐに分かることだし。入り口から見て、一番奥。そこにある壇上に初老の男性が現れた。


『これから、私立神野寺高校付属小学校の入学式を始めます。司会を務めさせていただく、小学校教頭の佐山と申します。』


そのままとくに問題なく式は進んでいく。児童会と呼ばれる小学校における生徒たちをまとめる機関の会長が挨拶があり、PTA代表からも挨拶があり、最後に理事長からお話を受けて、式は終わりを迎えた。小学一年生でも聞けるような要点をまとめた話で、なかなかに素晴らしかった。


「それではこれにて入学式を終わります。新入生は入り口付近で待機している先生のもとに、保護者の方はもう少しお待ちください。」


なるほど、ここでお別れか。僕は精神が大人だからそこまで問題ないけど、心が弱い子にとってはかなりの試練かもね。


さっそくギャン泣きする子が出てきた。それを皮切りにして、至るところで子どものかん高い泣き声が響く。こういうことを言うのは少し心苦しいけど、普通に耳が殺られる。うるさいってことだ。


でもなんだろうな。なぜかはわからないのだが、自分が平然とした顔でいるっていうことに、すごい優越感を感じる(圧倒的クズ)。はっ!!これが上位者の気持ちか…。


ぽん、と僕の頭に手がのっけられる。その手のひらのぬくもりに、どこか安心感を覚えた。その手の主である父様は穏やかに笑っていた。


「頑張りなさい。困ったことがあれば僕たち、あるいは先生たちやクラスメイトに頼るといい。きっと助けてくれるはずさ。」


「そうよ。一人で無茶をしたらダメよ?どんな時でも、人に頼るという手段を忘れたらいけないわよ。」


「父様、母様……いってきますっ!!」


二人に対して、満面の笑みでそう告げる。言いたいことがあるとすれば、今生の別れというわけではないのだから、そこまで大げさに言う必要はないと思うのです。


ほら…鈎宮さん一家もそこまで重苦しいことを言っていないでしょう?もう少しだけ、よその家を見習ってほしいですね。



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