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魔界の手前で事業を展開する~追放貴族の第二の人生~  作者: 朔もと


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9 孤児たち

 店へ戻ってアーネットさんの手伝いと診察。


「魔界はどうです?」

 古傷が多い兵士に聞いてみた。戦うことが好きなのだろうか。


「ひどいところさ」


 魔物にやられた傷は腐敗がすぐに広がる。井戸水で洗えばたちまちきれいになる。


「今日は宿に泊まりますか?」

 夜通し歩いて帰る人もいる。


「ああ、頼む」

 と言ってくれてほっとした。


「まいど。アーネットさん、お客さんだよ」


「はいよ」


 アーネットさんが客を案内する。金を持っていれば個室、なければドミトリーの部屋。どちらにせよ、金になればいいとアーネットさんは思っている。


ハイネンはどうしているだろうか。ケガしてないだろうか。

 さっきの客が、

「飲み水さえない」

 と魔界の愚痴をこぼしていたから、瓶に入れた水をアーネットさんの店で売ったらいいのではないだろうか。


 その日は魔界から来るケガ人は少ないし、向こうへ行こうと宿へ泊る人もいない。


「そういう日がある。風が悪いとか日和が悪いとか」

 とアーネットさんが教えてくれた。


「その割にいつもと作る量同じだね」

 わかっているならば減らせばよかったのではないだろうか。


 しかしアーネットさんは毎日、ごはんを作る。余った食事はどうするのだろう。


 それを知るのはすぐだった。


 夜、酒場も兼ねている店だが9時には店を閉める。客が少ない今日はいつもより早かった。


 アーネットさんは外で幼い子どもたちに施しをしていた。

「余りものだから遠慮しないで」


 どういう事情で親なしになってしまうのだろう。こんな小さな村なのに、かっぱらいができるような環境でもないのに、子どもらがここに居続けるのはアーネットさんがいるからかもしれない。


 翌日、トムじいさんからアーネットさんが孤児を引き取ってきちんと育てては子どもに逃げられていることを聞かされた。


「男の子は勇敢に魔界へ、女の子はたまに来る物売りや吟遊詩人に惹かれてどこかへ行ってしまった」


 知らなかったアーネットさんの過去だ。


「だからあばら家にいる子どもらを引き取らないんですね?」

 ずっと不思議だった。食べ物だけ与えるだけでなく引き取って店を手伝わせればウィンウィン。


「もう子どもを育てる気力もないそうだよ。そこへジェイドが来た」


 トムじいさんがにっこり微笑む。


「俺ですか?」


「よく店を手伝うし、頭もいい。定職のあるお前さんならいなくならないだろうって嬉しそうだったよ」


「ただの30すぎのおっさんです」


「だからいいんだ。子育ては大変なんだよ。期待をしても裏切られる。ああ見えて涙もろいんだ、アーネットは」


 二人の関係を聞こうとしてやめた。知らなくてもいいことはたくさんある。

 アーネットさんのことはよく働く婆さんだと思っている。よくも用心棒を雇わずに宿を切り盛りしているものだ。


 寂れた村だからこそ、みんなで助け合っている。だからって傍若無人な客もいるはず。防具屋の店主もおじさん。パン屋のボルトは若いけれども細身。幼子がいるからこそ保身。


 俺も拾われたようなものだ。運がよかっただけなのだろうか。人が来ないから悪い人間も比例して少ないのだろうか。


 わけのわからない村だが、だからこそ開発の余地がある。

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