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魔界の手前で事業を展開する~追放貴族の第二の人生~  作者: 朔もと


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50 宝石

 村へ着いたのは夜だった。

 意外なことにウィルがエリックを怒鳴りつけた。


「どういうつもりだ? こんなにたくさんの人に迷惑かけて」

 年齢からしても歳の離れた弟のように思っているのかもしれない。


「ごめんなさい」

 エリックもおとなしく謝罪した。


「私が悪いの。エリックを止めなかった」

 ミンティも自分の暮らした家のその後が気になったのだろう。


「ジェイドが働かせすぎなのよ。逃げ出したくもなるわよね。陰気な顔してるし」

 とライラが言ってくれて空気が和んだ。


 スーザーとライラに夕飯をごちそうする。


「久々の魔界はどうだった?」

 ムルモンドも来てスーザーに聞く。


「なにも変わっておらん」


「そうか」

 ムルモンドも行きたかったのかもしれない。人生の半分ほどを向こうで過ごしている。人助けという名目だが、楽しくなければそんなには続けないだろう。


「そうじゃ」

 スーザーがポケットから金貨や宝石の粒を取り出した。


「いつの間に?」


「こういうのを拾うのが得意な前衛でな」


「ライラ、このメノウと一緒に飾って土産屋で売ってくれないか?」


「いいけど、値段は決めてよね。私、そういうのは疎くて」

 こういうキラキラしたものが好きではない女性もいるんだな。


「きれい」

 ミンティは好きみたいだ。


「ひとつだけなら安く売ってやろう」

 スーザー、宝石商でもやればいいのに。


「これにする」

 ミンティは赤い石を選んだ。


「よう似合う」


 その夜はペティも手伝いに来てくれていた。ジムが風呂の受付をしてくれているらしい。


 飯を食ってからエリックの足を診た。

「腫れてるな」


「これをどうぞでしゅ」

 ジュリアンはびわの葉を持ってきてくれた。


「ありがとう。温泉も効くかな」


「疲れたから今日は休む。本当にごめんなさい」

 エリックはバツが悪そうに宿の空いている客室に上がっていった。


「エリックは父親のことなにか言ってたか?」

 ミンティに尋ねたが首を振った。


「ううん」


「どうして急に行こうってなったんだ?」


「わからないけど、突発的に思ったんじゃない? あの日の空と同じだ、とか」

 ライラが言った。思っていたより感覚は人間的だ。魔術師は王宮にもいたが、もっと冷たいイメージ。

 時間によって王宮の結界を確認したりするのはいいのだが、人が亡くなろうが、飯炊き女たちが揉め事を起こしていてもまるで気にしない。


 夜、一人で温泉に浸かった。じんわりと体が温まる。これも売りにしよう。

「疲れた」


 魔界って空気が冷たいだけでなく重たい。こっちから魔法をかけても魔界には届かない理由はやはり光だろうか。境にある塀や門ぎりぎりのところに結界を張っているが強いモンスターは綻びから脱出する。


「ふぁ」

 スーザーもお湯に浸かって来た。


「よくあんなところにずっといたな」

 とスーザーに言った。


「むこうにいたらいたで慣れるさ」

 そういうものなのだろうか。順応力が高すぎる。


「あとで今日の分の金を払うよ」

 俺は言った。警護代。


「いや。久々にあのピリッとした空気を味わった。もう行くこともないだろう。宝石もたくさん手に入れた。それで充分じゃ。お前さんが気にするなら明日の朝ごはんでも奢ってくれ」


「わかった」


 スーザーと星を眺めた。


「こうやって命の心配もなくのんびり風呂に入るほうが性に合ってる」

 スーザーは言った。


 俺もそうだ。だからこの村に留まることにした。他の場所ではきっと生きられなかった。家に戻れない貴族は死ぬしかない。医学を学んでいてよかった。


 宿に戻り、自分の部屋のベッドで横になる。

 天井を見上げながら思った。エリックの部屋を作ってやろう。

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