46 魔界1
諦めない兄からはたまに手紙が届いた。が、それも月単位でまとまって物売りが持って来るから、どれが先に書いたものかもわからないほど束になっていた。
「勧誘?」
ライラが手紙の束に呆れる。
「ライラだってお声がかかるだろ?」
「まあね」
朝、当番なのにミンティの姿はなく、慌ててお湯を沸かし朝食の準備をする。
「おはよう」
ムルモンドたちも来た。
「おはよう。寒くてすまない。暖炉をつけたばかりで」
スーザーは薪を足して息を吐いた。
「こうしたほうが火の回りが早い」
勇者一行の火の番だったのだろうか。
「おかしいな。エリックも起きてこない」
いつもエリックのほうが寝坊する率は高い。
「見てくるでしゅ」
ジュリアンに様子を見に行かせた。
日が昇ったことを知らせて起こしてくれるようなシステムがあればいいのだが。
「二人して寝坊?」
「できてるんじゃない?」
というライラの言葉にはっとする。そんなこと、充分あり得る。ずっと一緒にいたら年齢など気にせず愛してしまう。
「二人がいないでしゅ」
戻って来たジュリアンが叫んだ。
「ニワトリ小屋は?」
駆け出そうとするジュリアンをライラが制止する。
「探知魔法。一回、1000テカね」
ライラ、ぼったくりだ。しかし今は頼るほかない。
「わかった」
俺が治療に使う魔法よりはるかに強い。目に見えるほどの魔力だ。
「この宿の中にはいない。範囲を広げる。村の中にもいないわ」
目を閉じているのにライラには何が見えているのだろう。集中して手の中の空間で探っているようだ。
「大変だ。誰かが勝手に門を抜けたようだって。エリックじゃないかってトムじいさんが言ってる」
ウィルが店に駆けこんできて、ライラの集中力が切れた。この場合は半値に値切ろう。
「二人が魔界に? 有り得るな」
思い当たる節がありすぎる。エリックはムルモンドたちに魔界の話を聞くのが好きだったし、ミンティはそこに住んでいた過去を持つ。
「実際に行ってみたらたいしたことないわ」
ってミンティが誘ったのではないだろうか。
「どうするでしゅか?」
ジュリアンが涙目で聞く。
連れ戻しに行きたい。しかし二人が自発的に行ったのであればもう制止はできない。
エリックは父親を探しに、もしくは妹の病に効くキノコを取りに行ったのかもしれない。
ミンティは、自分の家を見たかったのだろうか。
「1万テカで見に行ってもいいわ。門の通行料も払ってね」
ライラが席を立つ。
「わしらも行こう」
ムルモンドたちが来た。
「いいや。俺が行くからムルモンドは残ってくれ」
どうしてそんなことが言葉になったのか自分でもわからない。
俺の身になにかあれば、代わりに村を仕切ってくれるのはムルモンドが適任。
「俺も行く」
ウィルも言ってくれたが、宿の業務を任せられるのはウィルしかいない。
「馬小屋づくりの途中なのに悪いな」
丸太を切って積み上げているところだった。
「仕方ないさ」
強風で一度、途中までできあがったのに崩れてしまったときもウィルは同じような顔で言った。
「おはよう。朝飯くれ」
起きてきた客に事情を話したら、
「俺たちもこれから行くから同行しよう」
と申し出てくれた。
診療はジュリアンに任せた。
別に二人を連れ戻すつもりはない。丸腰で行っただろうから心配なだけ。




