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魔界の手前で事業を展開する~追放貴族の第二の人生~  作者: 朔もと


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45/45

45 兄

 イーサンはその日、宿に泊まることになった。


「諦めないぞ。お前を連れ戻したら褒美がもらえる」

 ライラが酒を飲ませたら、兄はあっさりと吐いた。


「誰に頼まれてるのやら」

 食事を食べに来たムルモンドとスーザーもカウンターに陣取る。


 寝てしまった兄をエリックと部屋に運んだ。


「兄さんなのにジェイドの部屋じゃないんだ?」


「部屋が余ってるから、金になるし」

 と俺は兄を客室のベッドへ放り投げた。


「心配して来てくれたんだろ?」

 エリックとは家族の話をしないようにしていた。


「お金だろ?」


「兄弟だから似てるな」

 とエリックは笑った。


「師匠がいなくなったら困るでしゅ。私もついて行きます」

 酒場に戻るとジュリアンが言った。酒は飲んでいなさそうだ。


「いなくならないよ。やっとここでの生活が楽しくなってきたところだ」

 これからバンバン金を稼いでやる。


「本当に?」

 ミンティが聞く。


「ああ」


 家で食べればいいのにムルモンドたちがここへ来るのは人の話を聞きたいからだ。ソルジャーたちから勇者の話を聞きたいのもあるかもしえないが、静かなのが怖いのかもしれない。


 夜、仕事を終えてから風呂に入る。兄にも温泉に浸かってほしいな。こちらに引き入れたいところだが、兄も王宮で働く騎士だ。更に上の長兄にとってもイーサンは心のよりどころ。


 翌朝、兄に温泉を勧めた。気に入ったようだが、隙を見ては、

「帰ろう」

 と言い包めようとする。


 野菜を収穫していても、ウィルのじいさんと馬小屋をちゃんと作る話をしているときも。


「柵で囲い、屋根も作ったほうがいい。今みたいにつないでいるだけでは馬がかわいそうだ」

 兄は馬には優しい。


「馬を連れてくる客は少ないんだ」


 馬車で来る人はいるが、馬は御者が乗って帰る。


「これから増えるかもしれない」

 エリックが言う。


「そうだといいな」


 滞在中、兄はジュリアンと薬草を煎じたり、エリックと宿の手伝いをしてくれた。


 少しはここでの生活を楽しいと思ってくれているようだったが、

「疲れた。もう嫌だ」

 と兄は自分の家に戻った。騎士のくせに貴族様は根性がない。

 そもそも、自分の身の回りのことすらしない生活だったのだ。寄宿舎に行ってから初めて服をたたんだ。騎士になり、洗濯も経験したのかもしれない。


 天職なんてない。続けられることが、楽しいことが仕事の人はラッキーだ。


 ここにいることを選んでくれた人たちはどう考えているのだろう。お金で人は縛れない。


「じゃあ、世話になった」

 ソルジャーたちにも矜持はある。


 意味を持って生きている人なんて少ない。勇者だって、きっと悩んでいる。


 夜、空には星があった。それを見ながら眠って心地いい季節は限られる。これからの季節は寒くて辛いだろう。だからって魔物を放置してはいられない。

エピソードの番号がずれていたため修正しました。

ご不便をおかけして申し訳ありません。

指摘してくれた方、ありがとうございます。


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