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魔界の手前で事業を展開する~追放貴族の第二の人生~  作者: 朔もと


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43 定住

 ライラは定住してくれる約束はしてくれないままだが、そんなのみんなも同じだ。


 山に積もった雪が風で舞うようになった。


「寒いな」

 ムルモンドたちが暖炉の前を奪い合う。


「阿保らしい。向こうにいたときは外で寝ていたくせに」

 ライラが呆れる。


「はい。みなさんミルクティーですよ」


 慌ててミンティに、

「砂糖入れないで」

 と頼む。甘いケーキなどは好きだが紅茶などは甘くないほうが好きだ。


「ジェイドはそう言うと思ってこっち。シナモン入れた」


「ありがとう」


 ムルモンドたちは銀行を9時から15時までと決めた。そのあとは風呂が混むから。


 天気がいい日は誰かが洗濯をし、誰かはニワトリ小屋の掃除をした。いちいち指示をしなくていいのは楽だ。

 それはやらなければいけないリストを作り、やりたい人間が名前を書き込んでゆくシステムにしたから。皿洗いに客室チェック。どれも気が抜けない。ジュリアンには診療を優先してもらい、俺がどこかのヘルプに入る。


 料理に使えなかった野菜くずをニワトリに与え、卵の殻を畑に撒く。いい循環ができている。


 白菜がきちんと巻かれて育っている。あれはアーネットが植えたものだ。ありがとう。これからの季節、重宝する食材だ。


 ネギが太らずに困っていたら、

「植え方かな」

 とエリックとムルモンドが引っこ抜いて検証する。王宮でも育てていたのだが、土の問題だろうか。


「ジェイドのオイル売ったら?」

 とライラが言うので小瓶で売ることにしたら、ソルジャーたちが家族に土産として買って帰り、よく売れた。


 ムルモンドにも石鹸の作り方を教わりライラの提案で薬草を混ぜたらいい匂い。


「私、お土産屋さんがいいわ」

 ライラが言った。


「ライラは自分の能力を大事にしたら?」

 エリックに指摘されてきょとん。


「魔導士って国に数人しかいないんだろう?」

 突然変異のように生まれるからライラの親は農夫らしい。


「私もてっきり国のために働かされると思ったけど、王宮に入ってすぐ勇者一行に決められたとき誰も私を引き止めなかった」


 ライラもムルモンドたち同様、退職金みたいなものだけもらっていた。腕輪も。これで彼らの居場所を探っているのかもしれない。


「我々は宴があったのにライラはお金だけってかわいそうじゃ」

 スーザーが言う。


「いいの、いいの。目立つの好きじゃないし」


 ウィルとじいさんがムルモンドたちの家と風呂屋をつなげて、中間にライラの家兼土産屋を作ることにした。


「このところ、仕事続きで疲れた」

 というウィルじいさんには温泉の無料券を差し上げる。


「じいちゃん、前より筋肉質でかっこいいよ。猫背も治った。で、なんで俺には無料券くれないんだ?」


 ウィルには申し訳ないが、働きぶりが無料券に値しない。


「年齢だよ。たまにトムじいさんにもあげてるし」


 そうだった。人が増えると人間関係がややこしいのだ。不機嫌な人、意地悪な人には関わりたくないが、人間だから誰だって気分が上下する。

 こればっかりは慣れない。


「警察を置くには村長がいるって」

 ようやく返答が手紙で届いた。


 手続きがややこしい。郵便だってまだ物売りの気分次第。


「警察は無理でも郵便屋さんならしてもいいな」

 ライラが言う。


「これだけ強いの集まってたら警察いらないだろ」

 エリックがもっともなことを口にする。


「そうだな」


 元とは言え、勇者一行の四分の三が滞在している。最強の無課金防御みたいなものだ。

 宿と酒場だけならミンティだけで充分だが、離れたところにも悪い奴には来てほしくない。村を塀で囲む予算はない。そんなときに三人の知名度はとても便利。

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