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魔界の手前で事業を展開する~追放貴族の第二の人生~  作者: 朔もと


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42/46

42 30年の恋

 ライラはムルモンドたちの家に住みながら、ミンティとリンゴを収穫したり温泉の仕事を手伝った。


「この薬草、診療でも使えるでしょう?」

 と山で摘んできた薬草を分けてくれたりするいい人だ。


「ありがとう」


「やだ、この子知ってる」

 とミンティの耳を掴んだ。


「やめて」

 ミンティの攻撃をかわす。


「これこれ。だいぶ前に世話になったのはこちらぞ。感謝はしてもいじめるでない」

 ムルモンドが止めてくれた。


「いじめてない。かわいがってるの」

 いじめの主犯格みたいな言い草だ。


「魔界で会ってたのか?」

 エリックがミンティに聞く。


「うん」


 ミンティ家族がいつから魔界にいたのかはわからない。勇者一行の前にも人間は魔界へ立ち入っていただろうから、ミンティの家は人間にとって命綱だったのではないだろうか。


「ああ、そうか。銀行に盗みが入らないようにライラに魔法を頼んだらいいんだ。そうすればスーザーにも自由な時間が持てる。魚釣りに行きたいんだろ?」

 俺は提案した。


「いいけど私の魔法は高いわよ。そうね、この酒場や宿で喧嘩した人間は宙に浮く魔法、喧嘩を吹っ掛けたほうが一生悪夢を見続ける魔法。そもそも悪人はこの村に入れない魔法、全部で7000万テカね」

 ライラはぱぱっと計算する。


「一生かかっても払えない。もう少し現実的な金額で頼む」

 金を作りたいのに貧乏になってしまう。


「嫌よ。私、これでも王様が選出した魔導士よ」


「ライラだけは国が選んで我々のパーティに加わったんだ」

 とムルモンドが教えてくれる。


 ははーん。それで勇者に一目ぼれしたのに30年も恋が実らずに歳だけ取ってしまったと思っているのか。


 きれいだけど意地悪そうな人。もっとおばあさんになったらアーネットに似そうだ、ライラは。

 30年間も同じ人が好きだなんて、ある意味、才能。


 冬になる前に食料の確保は必須だ。

 柑橘類の木が山にあったから、あとで取りに行こう。乾かせばその皮も胃腸薬くらいにはなるだろうか。


 宿はエリックに、食堂はミンティに、診療所はジュリアンに任せられる。

 ひとつやり遂げた気持ちになった。でも誰かが寝込んだら代わりは必要だ。しかしこれで交代に休める。


 客も少しずつ戻りつつあった。そうなってくれないとトムじいさんの収入がなくなってしまう。


 年寄りは働かなくてもいい国があるらしいが、この村では無理だ。もっと優しい世界になればいい。

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