42 30年の恋
ライラはムルモンドたちの家に住みながら、ミンティとリンゴを収穫したり温泉の仕事を手伝った。
「この薬草、診療でも使えるでしょう?」
と山で摘んできた薬草を分けてくれたりするいい人だ。
「ありがとう」
「やだ、この子知ってる」
とミンティの耳を掴んだ。
「やめて」
ミンティの攻撃をかわす。
「これこれ。だいぶ前に世話になったのはこちらぞ。感謝はしてもいじめるでない」
ムルモンドが止めてくれた。
「いじめてない。かわいがってるの」
いじめの主犯格みたいな言い草だ。
「魔界で会ってたのか?」
エリックがミンティに聞く。
「うん」
ミンティ家族がいつから魔界にいたのかはわからない。勇者一行の前にも人間は魔界へ立ち入っていただろうから、ミンティの家は人間にとって命綱だったのではないだろうか。
「ああ、そうか。銀行に盗みが入らないようにライラに魔法を頼んだらいいんだ。そうすればスーザーにも自由な時間が持てる。魚釣りに行きたいんだろ?」
俺は提案した。
「いいけど私の魔法は高いわよ。そうね、この酒場や宿で喧嘩した人間は宙に浮く魔法、喧嘩を吹っ掛けたほうが一生悪夢を見続ける魔法。そもそも悪人はこの村に入れない魔法、全部で7000万テカね」
ライラはぱぱっと計算する。
「一生かかっても払えない。もう少し現実的な金額で頼む」
金を作りたいのに貧乏になってしまう。
「嫌よ。私、これでも王様が選出した魔導士よ」
「ライラだけは国が選んで我々のパーティに加わったんだ」
とムルモンドが教えてくれる。
ははーん。それで勇者に一目ぼれしたのに30年も恋が実らずに歳だけ取ってしまったと思っているのか。
きれいだけど意地悪そうな人。もっとおばあさんになったらアーネットに似そうだ、ライラは。
30年間も同じ人が好きだなんて、ある意味、才能。
冬になる前に食料の確保は必須だ。
柑橘類の木が山にあったから、あとで取りに行こう。乾かせばその皮も胃腸薬くらいにはなるだろうか。
宿はエリックに、食堂はミンティに、診療所はジュリアンに任せられる。
ひとつやり遂げた気持ちになった。でも誰かが寝込んだら代わりは必要だ。しかしこれで交代に休める。
客も少しずつ戻りつつあった。そうなってくれないとトムじいさんの収入がなくなってしまう。
年寄りは働かなくてもいい国があるらしいが、この村では無理だ。もっと優しい世界になればいい。




