41 ライラ
酒場はいつも人が出入りしている。
泊り客が出かけていき、次の客が来る間、稀に静かな時間が流れる。そんなときにお金の計算をするのがとても好きだ。
「すいません」
酒場に女性一人の客なんて初めてだ。
「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」
夕方に来て食事だけということはないだろう。
「こちらにムルモンドがいると聞いたのですが?」
「はい。今は家にいると思うので呼んできましょうか? そろそろ夕飯を食べに来る時間だと思いますが」
「ライラ?」
ちょうどスーザーが夕飯を食べに来た。
「スーザー、久しぶり」
女性はスーザーに抱きつき、泣きわめく。二人の抱擁は美しく、感動的な再会と思われたが、
「スーザー聞いてよ。アインったらね、若い子たちを集めて私を解雇したの。ひどいわ」
と話し始めた女性を見て、恋とは別のものなのだろうと察する。
スーザーが目配せをしてムルモンドを呼んできてほしいと俺に合図する。
「ライラが? 彼女は魔導士だ。アインが? そう、そりゃひどい」
見たままの経緯を話しただけでムルモンドはたくさんのことを理解してくれる。
「ムルモンドに来てほしいって」
ムルモンドは頷いて、酒場で彼女を宥めた。
「暇ならライラもここで働いたらいい。いつか薬草を育ててのんびり暮らしたいって言ってたろ」
ムルモンドは彼女の頭を撫でて言った。
「とりあえず飲め飲め」
スーザーが酒を勧める。
「ライラにも王から報奨金があるかもな。金が貯まって困っているならぜひうちの銀行に預けてくれ」
ムルモンドも商売上手。最近ではソルジャーたち相手に金を預かって、その保護という名目で返すときに手数料を取っているらしい。
「銀行? お金は裏切らないもんね。あんなに尽くしたのに」
恐らく、ライラは魔王討伐よりも勇者のことが好きだからパーティに加わっていた。いつか愛されると思っていたのだろうか。哀れだ。
「それっていいように使われていただけってことでしゅか?」
ジュリアンがミンティに耳打ちする。
「他人が口出すことじゃないよ。女の人は好きだろ? 恋とか愛とか」
と冷たい言い方をしてしまった。
勇者にとって恋は足枷なのだろうか。だったら早くに伝えればいいのに、彼女とは背中は任せられる間柄だったのだろう。
ともあれ、信用できそうな強い人が来てくれたことは有り難い。なんとかライラには定住してもらわねば。
ウィルと結婚してくれまいか。そういうのは本人の気持ちが大事だ。
だからって娯楽の少ないこの村にライラが興味を示すとは思えない。
「ジュリアン、ミンティにお願いがある。なんとしてでも彼女がこの村に住むように仕向けてほしい」
と俺は懇願した。
「師匠、彼女のことが気に入ったでしゅか?」
ジュリアンが涙目で聞く。
「そうじゃない。ただ、今はどうしたって人手が必要なんだ」
「薬草を取る生活がしていたいと話していたならその通りにしてあげれば?」
ミンティが言った。
「そうだな」
それを安く売ってもらえれば俺も助かる。




