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魔界の手前で事業を展開する~追放貴族の第二の人生~  作者: 朔もと


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39 風呂屋

 桶職人が樽のような風呂を作り上げるのを見て触発されたのか、ウィルのじいさんも木の風呂を完成させた。なんとか工法と教えてくれたが、とにかくお湯が漏れない構造らしい。


 ジュリアンが魔法で石を削った岩を皆で縄で引っ張り移動する。


「風呂っぽくなって来た」


 スーザーたちの家ができあがり、風呂屋の骨組みもできていた。


「おお」


 ムルモンドたちは早く風呂に入りたいらしい。


「温泉を引くのに乾いた竹がいいってじいちゃんが言ってた。森にあるかな。行ってくる」

 ウィルが森に行くのについて行った。


 俺も仕事を辞めたあと、森にこもってもよかった。静かに暮らすのがずっと夢だった。しかし、やはりせっかくならば人の役に立ちたい。医術が必要な人もいる。


「これはどうだ? 枯れてだいぶ経ってそう」

 ウィルが手にしたものは確かに青々しくない。


「細い竹だと中の節を取り除けないだろ?」


 折れている太い竹を持ち帰り、ウィルのじいさんが真っ二つにする。節を取り、温泉が湯船に入るように竹を湯船に固定する。


「溜まってく」

 ウィルが手で温度を計る。


 ムルモンドが最初に入ればいいものを、トムじいとウィルのじいさんに譲った。

 年長者を大事にする村と聞こえはいいけれど、実際は二人にはまだまだ働いてもらわなくては。


「ああ、気持ちええのぉ」


 ムルモンドはそうでもなかったがスーザーの体は傷だらけ。人間の体は治っていないようで治っている傷もある。


 俺も入ったし、客は金を払って入浴。


「男たちばっかりずるい」

 ミンティに言われて、はっとする。


「女湯も作るよ」


 また仕事を増やしてしまった。


 銀行の準備はできつつある。


 毎年冬になると質屋のペティは出稼ぎに行くらしい。隣りに暮らす両替屋の兄のジムとはそれほど仲は良くないらしいが、ペティの出稼ぎの収入で二人は一年を暮らしているらしい。つまり、質屋と両替だけでは生きてゆけないということ。

 しかし今年はペティの体調が悪く、出稼ぎが難しいらしい。


 見る限り、慎ましい生活を二人はしている。

「俺が悪いんだ。仕事はできないし要領も悪い。同じ作業をずっとするのは好きだ」

 と兄のジムが酒場で嘆く。だからたまに薪拾いに行ってはトムじいさんやパン屋から小銭をいただいているらしい。


「だったらうちもお願いしたいし、たまにでいいから風呂屋の掃除で収入を増やしたらいい」


「助かるよ」


 仕事があるから救える。

「ペティの病気を見に行こうか? 今ならジュリアンがいるから」

 俺は言った。


「医者には診せたくない。親が二人とも金だけ取られて亡くなっているから」

 それで貧しくなるほど財産を取られたらしい。


「そんなひどい奴に見えるか?」


「人は見かけによらない。信じない」

 とジムは言った。


 アーネットが生きているときからとっつきにくい兄弟だった。それには理由があるのだ。


 簡単に騙されやすそう。ペティの病気を理由にジムたちの土地を容易にぼったくれる気がする。


「温泉だけでも入りにおいで」


 優しくするのは二人を取り込みたいから。時間があるときだけでいいので働いてほしい。難しいことが苦手でも単純作業ならできる人もいれば逆もいる。

 いろんな人がいるから世界は回っている。

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