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魔界の手前で事業を展開する~追放貴族の第二の人生~  作者: 朔もと


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38 温泉

「とりあえず中に入りなよ。手が冷たい。温かいスープあるから」


 ミンティの手をジュリアンは振り払った。


「師匠はこの女にそそのかされてるのでしゅか?」


「違う違う」



 酒場でミンティの作ったスープを飲むジュリアンにここでの生活の一部を話す。


「つまり、師匠は医学よりも金儲けが楽しいと?」

 落ち着きを取り戻したジュリアンはスープを飲み干して呆れた顔で言った。


「金儲けというより村づくりだ」

 王への返信には村に定期的に郵便屋を来させてほしいとお願いした。


「廃村になるのはその村に魅力がないからでしゅ」


「この村には魔界へ通じる門がある。客が来るのにそれを受け入れる人間がいないのが惜しい」

 俺は言った。


「そうだ。昨日思ったんだけど冬になる前にお風呂屋を作らねえ? 儲かると思う」

 エリックはたまに突拍子もないことを言うけれど、これは妙案だ。


「いいね。ウィル、じいさんに風呂作れるか聞いて」


「はいよ」


 別館は診療室を作ってしまったから湯屋は他の場所に作ったほうがいい。


「私の探知魔法で温泉を掘り当てましょうか?」

 ジュリアンが言う。


「そんなことができるのか?」


「はいでしゅ」


 ジュリアンが幼く感じるのはその話し方のせい。ジュリアンは手を光らせ、水脈を探る。


「できれば宿の周辺がいいな。泊り客に勧められる」

 今はシャワーと沸かした風呂のみ。汚れた男が一人浸かれば、風呂の湯はたちまち汚くなってしまう。


「温泉に適しているのは二ヶ所。裏の畑の横か、こっちの魔界の近くでしゅ」


「どっちがいいだろう」


「うちの裏のほうがいいな」

 トムじいさんが来て言った。


「場所が狭い」


「門を少しずらしては?」

 エリックが言う。


「魔界を侵略? 叱られない?」

 王からだろうか。魔王から? どちらからもということも有り得る。


「何十年も監視に来ないのが悪い」

 とトムじいさんが言う。


 魔界との境にある門の周辺の塀は強靭で、たぶん魔法もかけられている。はるか昔にこんな工事がよくできたものだ。


「無理そうだ」


 でも今回初めて門をよく見たことでわかったことがある。塀は無理でも門だけでの移動はできそうだ。門を少しずつ魔界の中へ移動できたら侵略できるのではないだろうか。


「仕方ない。ムルモンドたちの家もできつつあるから、その裏にしよう」


 温泉を掘るのは暇そうな客に任せた。勇者たちが魔界にいないので、今は向こうへ行くソルジャーもいない。そして噂話だが、宝石などが高値になっているらしい。

 今はそうでも、魔界へ取りに行く人が増えればまた価格は下落する。だからこそ、今が売り時。


 ムルモンドもそれがわかっているから隣り村へ行って換金してくる。もっと上がるかもしれないから全部は手放さない。


 ウィルのじいさんの腕でも木で風呂を作るのは難しいらしい。

「どうしてもつなぎ目から水が漏れてしまう」


「桶の要領でいいならやってみるぜ」

 たまたま客に職人がいる。これも巡り合わせだ。石工はいない。


「岩をくり抜けば風呂になるかと思って」

 ちょうど大きな岩もある。


「私がやりますでしゅ」

 普通は自分の魔力を温存したがるものだがジュリアンは考えなしに使ってしまう。


「いいのか?」

 診療の手伝いもしてもらいたい。


「大丈夫でしゅ」


 根本的に俺とは魔力の差がありすぎるから温存の必要がないようだ。

 しゅるしゅるしゅると岩に風でお椀のように削る。

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