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魔界の手前で事業を展開する~追放貴族の第二の人生~  作者: 朔もと


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34 家を建てる

 魔界から逃げてきたソルジャーたちの多くもケガが治り己の村へ帰って行った。


「命を助けてもらったのに金が払えねぇ」

 という男気溢れる客には畑を耕してもらったり、この時期は木の実を採ったり、手伝ってもらう。


 スーザーとムルモンドの家も順調。

「一階は店舗で二階が住まいになるように」

 俺がウィルのじいさんに頼んだのはそれだけだ。


 孤児たちがいなくなったあばら家を一掃し、ウィルのじいさんが設計し、ウィルが木を切り、はめ込んで強度がつくように家を建ててゆく。


「二人にしては広すぎんか?」

 賢者様は狭いほうが安心するのだろうか。


「どっちかが結婚するかもしれないじゃない」

 ミンティの言葉に二人は大笑い。


 二人の元へやって来たのは勧誘ばかりではない。


「王様からの便りです」

 滅多に来ない郵便屋がわざわざ手紙を届けた。いつもはこの村に来る予定の物売りに頼んでいるくせに。


「なんだろうか?」

 ムルモンドは不安そうな顔をしたが、スーザーがビリっと封を開けた。


「褒美の勲章をくれるそうじゃ」


「名誉なことだ」

 俺は言った。


「面倒臭い」

 賢者様にとって勲章はそれほど欲しいものではないのだろうか。


「ムルモンドは公の場でちゃんとしたこと言わないとッて考えすぎなんじゃ」

 スーザーが言った。


「賢者様は大変ですね」


「さて、今日も働くか」

 畑仕事をしているほうがムルモンドは楽しそう。


「じゃあ、ミンティたちが取って来た木の実を洗って、それからこの種取りと、夕方前にキノコ採りに行ってください。夕飯の食材にするので」

 賢者様はなぜか毒キノコにも詳しい。


「わかった。スーザー、行こう」


 二人がここに定住してくれるといいと俺は本気で願っている。


「隠居生活か。羨ましいぜ」


「ウィル、ぼやいてないで早く二人の家を完成させてくれ」

 いつまでも宿に泊まっていられては、こちらの収入にかかわる。


「じいちゃんが木を削ってるから無理だ」


 ウィルのじいさんの頭には設計図ができているがウィルは言われた通りにしか動けない。木と木がうまくはまるように集中して作業するじいさんには声がかけられない。


「じゃあニワトリの小屋をもうひとつ作ろうか」

 ニワトリが増えない要因として、折角卵からかえったヒナが成鳥に踏まれて死んでしまうことも少なくないから分けてあげたい。


「わかった」


 アーネット、あなたと丸一年一緒に暮らしていないから、冬が怖いよ。雪は積もるのだろうか。どれくらいの食材を準備しておけばいいのか尋ねたい。


 賢者様なら保存食の作り方を知っているだろうか。あとで聞こう。


 暖炉だけでなくかまどで使う薪の準備、調味料の調達、自分たちだけでなくニワトリ小屋の防寒対策に餌の確保などなど冬の前はやることだらけ。


 たなびく雲を見ていても時間は経過する。無論、休息は必要だが、何もしていないより動いていたほうがいい。

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