31 生活費
戦いには参加しないが、きちんと自分の生活はこなすつもりだ。
「なんか生活費が上がってると思ったらミンティの分か」
自分たちの生活費も家計簿をつけている。
「すいません」
ミンティが謝る。
「いや、役に立ってくれてるから助かってる。月末には給与を渡すよ」
料理に用心棒。こんな二役をしてくれる人材はなかなかいない。
「置いてもらってるのにそれは困る」
ミンティが拒む。
「ほんの少しさ」
とエリックが耳打ちした。
まだ人手が足りない。患者を診なければいいのだろうか。
医者としてケガ人を見放せない。
まずは宿をきれいにして、酒場ではおいしいものを提供するのは最低限のこと。医療も手抜きはしない。
「どうしたらもっとお金を稼げるんだろう」
酒場で頭を抱えていると、
「なんでそんなにお金が必要なの?」
とミンティに聞かれた。
自分でも、ん? となった。
「食材を買ったり宿を修理したり」
なにをするにも金はかかる。
「戻りました」
エリックが畑から野菜を収穫してきた。
「野菜は買わずにほとんど作ってる。卵もある」
ミンティは不思議がる。
「ミンティの親だって危険な場所で君を育てて、そのためにお金が必要だったと思うよ」
「ああ。確かにそうね」
「魔界で食材調達ってどうしてたんだ?」
エリックが聞く。
「年に数回だけ霧が晴れる日があって、その日にパパは買い出しに行ってたな。ママがいつも結界を張っていてくれたけどその日は私が触れないほど強固だった」
「へぇ。それもこの前の月とかと関係あるのかな」
ケガ人が多く発生する日など知りたくないが、法則があるのであれば前もって準備はできる。
魔物が減る日、たくさん出る日。魔王が操っているのか、自然の作用なのか。
「それがわかればもっと稼げる」
ベッドも増やそう。
そういえば王宮には天文学部があった。こういうことを調べていたのだろうか。それくらい価値のあることなんだろうか。
「これから冬で日が短くなる。虫が減るから葉物野菜を増やして、カブはまだあるから、玉ねぎが作りたいな。日持ちするし長く保存できるから作ったほうがいいよ」
エリックの野菜管理は学問に匹敵する。
「その頭にあるものをこれに書き記してくれよ」
畑の一年のサイクルが知りたい。
領主の息子だったから収穫祭に参加はした。
夏野菜とかかぼちゃの収穫時期は覚えていても植え付けの時期まではわからない。
「わかる範囲で書いてみる」
エリックにノートを一冊渡した。
「勉強みたい」
と眉間にしわを寄せるミンティには鶏の捌き方も教えて欲しい。頭を落として血を抜いて、お湯で羽をむしり、あっという間に部位ごとにわける。
「図にして」
そうしてくれないと理解できない。
「できないよ」
俺は半分にして肉をぶった切ることしかできないことしかできないのだが、ミンティは内臓まで食材にする。
ソルジャーたちに心臓や肝臓は人気だ。
「鶏も思ったように増えないし」
もっと農場のようになるかと予想していたのに、買ってきたときと変わらない。餌を与えるときに逃げてしまったりやっぱり獣に連れていかれている奴もいるのだろう。
「食べちゃうからでは?」
ミンティが言う。
「そりゃだってしょうがないだろ」
肉があってもアーネットの煮込み料理の足元にも及ばない。




