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魔界の手前で事業を展開する~追放貴族の第二の人生~  作者: 朔もと


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27 ドラゴン

 ミンティはヒヨコを手に乗せ、

「かわいい」

 と毎日かわいがっている。


「この辺りの羽だけ黒いね」

 エリックが指摘する。


「そこがかわいい」


「大きくなったら模様みたいになるのかな」


 ヒヨコはすくすく育ち、三週間ほどでニワトリに近づいたから隔離も必要なさそうだ。


 購入時に確認しなかった自分の落ち度なのだが、羽が傷ついていたり、体の大きさからメスではないものも紛れているようだったが卵が手に入れば問題ない。


「オムレツなら得意だ」

 エリックが作ったのは普通のオムレツだったが、中がトロリとしてうまい。


「グッドだ」

 客の評判も上々。


 ニワトリの飼育も最初は順調だった。しかし、ヒヨコが大きくなるとオス同士は喧嘩をしてしまう。


 それに、ニワトリの数も増やしたいのに卵も食べたい。抱卵したニワトリが弱って亡くなってしまったり、畑の虫を食べてもらいたいから放鳥したのに野菜を食べられたりした。


 そして恐れていたことも起こった。鳴き声で小屋に行くと動物が逃げて行く足音がした。幸いにもニワトリは無事だった。オスのトサカが傷ついていたから戦ったのかもしれない。


「一羽減ってるわ」

 ミンティはヒヨコから大事に育てたオス鶏がいなくなっていることに気づき、肩を落とす。


 生きているといろんなことがある。生き死にだけではない。解雇されたり家族から無下にされたり。


 自分で新しい家庭を築き、幸せになる予想図が描けない。


 ただ日々を過ごし、一日が終わるときにベッドで眠れればそれでいい。宿が混んでいる日だけ、エリックは俺の部屋に転がり込んでくる。


「おやすみ」

 と言い合えることが幸せだなとはちょっと思っている。言わないけど。


 王宮勤めのときは近くの官舎で暮らしていた。一人部屋だった。でも宿直のときは見張りの人たちとも休憩室が同じで、仮眠を取る人の寝息が聞こえることもあった。


 まだ半年ほどしか経っていないのに、あの生活は随分昔のように感じる。



「助けてくれ」

 夕刻前にそのガタイのいいソルジャーが来てから、てんやわんや。


「傷だらけじゃないか。そこの診療室に入って」

 さすがにテントでは突風のたびに心配になるので、ウィルのじいさんが新しい宿泊所の前に小屋を追加で建ててくれた。


「俺はまだいいほうなんだ」

 ソルジャーが叫ぶ。


「大変じゃ」

 膝の悪いトムじいさんもうちに駆け込んできた。


 ソルジャーの話では門付近にはあまりいないはずのドラゴンが暴れているらしい。


 足の速い者が勇者一行の元へ走ったそうだが間に合わず、多くが犠牲になり、生きている奴らが命からがら逃げ戻って来た。


「それに便乗して、いつもは弱いモンスターも束になって俺たちの血を吸いに襲ってきやがった」


 モンスターの中には人間の血を吸ったり、肉を食うウサギが少し大きくなったようなものや、魂を食らう人と似た形など様々だ。ドラゴンや巨大な熊もいる。


「門を開けたいが、怖ぁて」

 門番のトムじいさんが持っているのは眠り玉と錆びた剣だけだ。


「私が行く」

 ミンティがいてよかった。


「じゃあ診療がすぐにできるようにしておく。エリックは飯の用意をして」


「わかった」


 ウィルを呼んで診察室の前や酒場に椅子を並べる。


 魔界の門の向こうにはベルがあり、呼び鈴を鳴らすとトムじいさんが開ける仕組みになっている。カメラで確認もするが、人間である証として、じいさんが簡単な質問をする。

「水曜日の次は?」

 誰でも知っている歌詞だったり、花の名前。魔界の奴らはそれらを知らないから判断材料にはなる。


「あの犬女は大丈夫なのか?」

 ウィルが聞く。


「ミンティのこと?」


 ミンティの父親はたぶん犬ではなく狼だ。でもウィルが犬だと思っているならそのまま訂正はしない。


「あんなにちんまいのにモンスターを防げるのか?」


 だからって村に武器になるようなものはない。門を開けている間だけ、モンスターの侵入を防げればいい。


「強いから大丈夫だ」

 モンスターも見慣れているはず。個々の弱点を知っているのかもしれない。

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