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魔界の手前で事業を展開する~追放貴族の第二の人生~  作者: 朔もと


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25 収支

「ジェイド、椅子の修理終わったぞ」

 ウィルにミンティの部屋の椅子を直してもらっていた。アーネットより長く生きていてもミンティは小柄だから高さが合っていなかった。


「ありがとう。ミンティ、自分で部屋に運びなさい」


「はーい」


「どうした? 深刻な顔して」

 ウィルがノートを覗き込む。


「収支が下がってる」


「収支?」


「売り上げのこと」

 ウィルのところはつけていないのだろうか。


 アーネットがいたときからおおよその帳簿はつけていた。治療費は包帯代など以外ほぼかからない。酒場は酒と食材に金がかかる。宿も寝るだけなので儲かるだけ。しかし客が来てくれなければ利益にならない。


「アーネットがいなくなったんだからしょうがない」

 ウィルが肩を叩く。


「そうだな」


 彼女の料理とあのそっけなさはこの宿の強みだった。


「ニワトリを飼って卵料理を売りにしたい」

 きっと儲かるはずだ。


 そのためにはエリックやミンティにも手伝ってもらわなければならない。


「餌をあげるくらいならいいけど」

 まだ椅子を運ばないミンティは料理に忙しいようだ。


「村で飼ってたけど細長い獣にやられることがあったな」

 エリックが自ら村のことを話すのは珍しい。


「うん。だからみんなで守って育てよう。そうと決まったらウィル、じいさんとニワトリの小屋作って。畑の横がいいけど日当たりが悪いかな」


「小屋を横長にすれば、ニワトリも日が当たる場所だったり日影に自由に過ごせるだろ」


「なるほど」


 小屋ができたらニワトリを調達しにまた隣り村まで行こう。楽しかったからではない。他の調達方法がわからない。


「隣り村には行ってみたいけど、私を捕らえていた奴には会いたくないから行かない」

 とミンティは言った。


「エリックは?」


「嫌だけどどうしてもって言うなら」

 としぶしぶ承諾してくれた。


 エリックの場合は、会いたくない人というよりうっかり父親と一緒だったはずのガイドを見てしまったら父親の死を認めることになると考えているようだ。


 厄介な過去がない人間など少ない。生きていれば、いろんなことに巻き込まれる。そのおかげで強くなる人もいるだろうし、俺みたいに逃げ癖がつく人間もいる。



 三日経たずにウィルとじいさんは鶏小屋を完成させた。


「何羽かわからんからそんなに広くないぞ」

 じいさんは畑の西側に東向きの小屋を建てた。


「充分だよ」


 10羽以上いてもゆったりできそう。


「中を仕上げておくからニワトリを買ってきなされ」


「ああ。魔界からの瘴気は大丈夫だろうか?」


「最近はそんなに強い日はない。風は魔界に向かって吹くからな」

 ウィルが言った。


「そう」


 ニワトリ小屋に止まり木と餌入れだけはお願いした。

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