23 ミンティ
馬ももらって来た。ロバを捨てるわけにもゆかず、結局村へ帰ったのは夜になってしまった。
「ただいま」
宿の下の酒場に帰ると、エリックとウィルが営業をしながら女の子にごはんを与えていた。
「おかえり」
「誰?」
「ミンティだよ」
と女の子は答えた。
「エリックが孤児たちの住処で弱ってたのを助けたんだ」
ウィルが言う。
「弱ってないじゃないか」
背はエリックよりも小さい。確かに細い。
なんだろう、違和感。
「弱ってたんだよ。でも飯を食わせて風呂に入らせたらきれいになった」
飯を食った女の子はエリックの仕事を見様見真似で手伝う。エリックにとっては妹分のようなものなのだろうか。
「待って」
その女の子の違和感がなんなのかわかった。
「そう。獣人みたいなんだ」
ウィルが困った顔でつぶやく。
獣人とは獣の体の部分だけが残り、他はほとんど人間と変わらない。この子は髪で隠れているが耳と尻尾がある。
「確か、獣人は小柄でも人間の数倍の力があるんだよな」
だったらこの子は即戦力なのでは。
「お父さんは獣人だったけどお母さんはエルフだった」
と嘘か本当かわからないことを言う。
「孤児たちに捕まってたの?」
俺は聞いた。
「うん。獣人の女はすごい体になるんだって。そうなったら見世物小屋を作ろうってあの子たちは勝手に夢にしてたけど、ママの血なのか成長が遅くて」
エルフは一般的にとても長生きだ。獣人も人よりはちょっと長く150年くらい生きるらしい。
「年齢聞いてびっくりしちゃった」
とエリックが笑う。
「幾つなの?」
「記憶があるのは147歳」
何年か前に魔界で両親と営んでいた喫茶店が父の死により営業できなくなり、母は寂しさで消えてしまったらしい。
ミンティはなんとかここへ逃げてきたが、門を出たところで孤児たちに捕まったそうだ。
「君なら孤児たちなんて容易に八つ裂きにできるはずだ」
爪が鋭い。
「できるけど、あんな子供たちいつでも殺せるから」
だから言いなりになっていたというのか。
「魔界から来たのに誰も気づかなかったのか?」
ウィルに聞いたつもりだった。
「トムじいさんも居眠りばっかりしているからな」
そこで客から声がかかる。
「おーい。今日は酒しかねぇの?」
「あ、申し訳ない」
土産にもらった塩漬けの肉を早速使う。
「エリック、肉くらい焼けるだろ?」
「私がする。この辺のもの使っていい? へぇ、フライパンの手入れもされてる」
ミンティは肉を包丁で切り、塩味の強い部分を取り除いて焼いた。
「俺たちの中では今のところ一番料理の素質がありそうだな」
手際もいい。
「運んで」
料理を食べた客たちは、
「うまい」
と大絶賛。
「雇わざるを得ないわね?」
とミンティがほくそ笑む。
「そうしてもらえると助かる。ここの家主だった人の部屋がちょうど空いてる」
「その人死んじゃったの?」
「ああ」
獣人とエルフのミックスにとって人間の死はどんなものなのだろう。
「いいの?」
ミンティが聞く。
「なにが?」
「その死んじゃった人、あなたたちにとって大事な人だったんでしょう?」
「そうだけど、アーネットも俺たちより女の子の君のほうがいろいろ使ってもらうと助かると思うよ」
レースなんて身につけないし、宝石にも興味がない。
エリックがミンティを部屋に案内した。
「見たか、あの爪」
ウィルはミンティを恐ろしいと思っていることが伝わる。
「あんなに小さくても俺たちより強いのかも」
だったら用心棒にもなるし、看板娘にもなる。
「じゃあ俺、帰るわ」
「うん、ありがとう」
ウィルにもよく手伝ってもらっているから金を払うべきなのだろうが、
「じいさんの腰とか膝の治療費に充ててくれ」
と言うウィルを初めてかっこいいと思った。
「はーい、そろそろ閉店の時間です」
渋る客はたまにいる。
ミンティは後片付けも手伝ってくれた。見た目は少女だ。でもいろいろ役に立ちそう。
「おやすみ」
と言い合い、部屋へ戻る。エリックはあいている客室に寝泊まりしている。
「疲れた」
その夜はよく眠れた。家や土地のうやむやが解決したからではない。単純に移動は疲れる。




