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魔界の手前で事業を展開する~追放貴族の第二の人生~  作者: 朔もと


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21 店を引き継ぐ

 宿に戻ると留守番をしてくれていたパン屋のボルトが奥さんと甘いパンをたくさん用意していた。


「ありがとう」


 葉の形が描かれ、茎の部分が砂糖で固められたパンだった。


「この村って、極端に女性がいないな」

 アーネットがいなくなって気づいてしまった。


「そうなんじゃよ。ウィルの花嫁さんでも探しに行きたいが」

 じいさんはそれだけ言うと家に帰って行った。


 トムじいさんも。疲れたのだろう。


「今日はありがとう。酒を一杯ずつ奢ります」

 と手伝ってくれた人々に言った。


 宿を継ぐかもしれない人間として、まだ度量がないのでそれくらいしかできない。


「やったぁ」


 単純な人が多くてよかった。


「疲れたから風呂入って寝る」


 エリックもさっきまでは気丈に振る舞っていた。しかし、彼こそ短い付き合いながら、倒れてからのアーネットを看病してくれたし、アーネットが倒れたからこそ彼の存在意義みたいなものができあがってしまい申し訳なかった。


 一人で泣くのだろう。


「やっぱり人手が足りないな。孤児たちと話をつけようか?」

 ウィルが心配してくれる。


「悪さをしている人間がそう簡単に買われるとは思えない」


「俺だってじいちゃんに拾われなかったらどうなっていたか」


「そうだな」


「こんなときに悪いが、俺は村を出るよ」

 武具屋のレフティが言った。生活が立ち行かないのならしょうがないことだ。



 そんなことを話していた数日後、みなしごの姿をぱたりと見なくなる。アーネットがいなくなって施しがなくなることを予想して引っ越したのだろうか。


「トムじいさんには何か言ってなかったの?」

 と聞いてみたが首を振る。


「みんなでどこかへ行ったんだろう」

 とウィルも言うが、どこに?

 レフティはまだいる。家財まで質屋に売りつけようとしたと噂で聞いた。


「あいつら、居場所がないからここにいたんだもんな。行くあてなんてないだろうな」

 自分より若い子の行方をエリックも心配する。


「人攫いもあるか」

 と自分で言ったものの、そんな人たちがいたらほぼ目の前なのだから気づいただろう。


「魔界に行ったのかな」

 エリックは言った。


「小金稼ぎに? 行くかな」


「ウィル、話してないで手伝ってくれよ。そこの野菜を細かく切って」

 俺は言った。


「俺の仕事じゃないもん」


 確かにそうだ。


「っていうか、飯まずの宿ってどうなの?」


 エリックに指摘されてその問題も残っていたことに気づかされる。


「ジェイド、いなくならないよな?」

 ウィルが聞く。


「うん。行くところないし」


 俺だって孤児と変わらない。大人で、仕事があるから生きられる。

 子どもたち、いつか手に職をつけてちゃんと生きられる道筋を自分で立てて。


 この店がなくなったらみんなが困る。だからって続けられる自信はない。

 辛いときは眠るに限る。アーネットも客がいても先に眠るような店主だった。俺も真似しよう。

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