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魔界の手前で事業を展開する~追放貴族の第二の人生~  作者: 朔もと


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20 さようなら、アーネット

 こういう小さい村になるとわざわざ墓掘り人を呼んだりせず、できる人間がすればいいという考えになるらしい。


 今はまだいい。自分を含め、ウィルやエリックでできる。しかし、俺たちが死ぬ頃にこの村がどうなっているのか予想もできない。



「うーん。どこじゃったかな」


 ウィルのじいさんを墓場へつれてきたものの、アーネットの旦那さんのお墓がわからないらしい。


「墓標とか石碑とか置かないのか?」

 俺は聞いた。


「置くがどこかへ行ってしまう」


 墓荒らしでもいるのだろうか。


「じいちゃん、ここがあの木だから逆じゃない?」


 ウィルに指摘されて、図を上下逆にする。


「そうじゃ、そうじゃ。うちがここだから、アーネットの旦那さんがここらへん。アーネットはこのあたりでいいだろう」


「じいちゃん、見当が外れたら恨むぜ」

 と言ったのはエリックだった。


 確かに他の棺を傷つけたりしたら気分が悪い。


「大丈夫じゃ」


 宿を閉めてきているので、トムじいさんにいてもらっているものの、早めに戻りたい。


 エリックとウィルが穴を掘り始める。


「じいさん、どれくらい掘ればいい?」


 どうして墓の周りにはカラスが飛んでいるのだろう。


「5尺くらいか」


 言うのは簡単だが、土を掘るのって地味に大変。


「便利な機械でもあればいいのに」

 ウィルが言う。


「自分で考えたら?」


「仕掛けとか苦手」


「このあたりって、人が亡くなったら相続人ってどうなってるの?」

 と作業をしながらじいさんに聞く。


「家族がいたら継いでる」


「アーネットの店は他人の俺は継げない?」


「領主さまの許可がいる」


 役所もどきもないくせに、これで領主は管理しているつもりなのだろうか。


 穴を無事に掘り終えて宿へ戻る。ひとつの作業が終わるたび、アーネットへ恩返しをしている気分になった。


 そんなのは生きている人間のエゴにすぎない。



 次の日、ソルジャーに棺を運んでもらった。


「世話になったから」

 と魔界から戻ってきたばかりなのに疲れた体で山まで運んでくれる。


 足の悪いトムじいさんを運んでくれた人もいた。最期にもごもご何か言っていたので、僧侶はいなかったが代わりになってくれたことだろう。


「次はきっと俺の番だからよろしくな」

 とははっきり聞こえた。


「そういう人が生き残るんじゃよ」

 ウィルのじいさんが言った。


 こんなにみんなが来てしまっても、泥棒もいないのがこの村のいいところ。


 孤児たちもアーネットには世話になったからと盗みに入ったりしない。


 さようなら、アーネット。

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