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魔界の手前で事業を展開する~追放貴族の第二の人生~  作者: 朔もと


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17/46

17 エリック

 宿の別館が建って、ベッドや家具もウィルとじいさんが作ってくれた。二人への支払いはまとめてはできないから分割。利子はじいさんの治療費でうやむやにする。


 新しいからと客はみんなそちらへ泊りたがるので困った。木の匂いが落ち着くと好評だ。



「魔界にレッドドラゴンが出たらしいぞ」

 飯を食いながら客たちが話していた。


 道理でこのところ、帰還する者が多い。

 おかげで治療費が儲かっている。


「勇者たちも手こずっているらしいな」


 そんな話を聞くたび、ハイネンや門の向こうへ見送った客の姿がよぎる。実際問題、半分以上は殺されて、さらにもう半分が滑落や飢え死になどしているのではないだろうか。


 酒場で勝手に売っている『魔界の入り口付近の攻略法』の本はよく売れている。売れ行きがいいのは嬉しいが、写本が苦行。



 大雨が続いて、物売りが来ない。


「野菜とパスタがあってよかったよ」

 とアーネットが笑う。


 こんなときのために野菜を作っているのではない。


「じゃあ行ってくる。ありがとう」


 今日も朝から客は魔界へ向かう。ソルジャーたちは勇者たちの援護をして初めてお金が国から支払われる。それってどういう計算方法なのだろう。多くの人は、魔物が持っている金貨や珍しいキノコをこちらに持ち帰ってお金にしているのではないだろうか。


 そもそも、なんで魔王を倒さねばならないのだろうか。こちらの世界は発展し、魔界の力は弱まっているというのが王宮魔導士の考えだ。たまに魔物が村に出て暴れるそうだが、それに目をつぶれば問題はない。だが急にあちらの勢力が強まる可能性もある。だから魔王をやっつけたいのだろうが、現魔王を捕らえたところで、その次がすぐに成り代わるのだろうか。人間界のように。

 王宮で強い魔法を使えるものが魔界の結界を四六時中張っているそうだが、たまに綻びが生じて突き破られるらしい。その魔力をもっと強くするのはどうだろう。王宮から離れたからこそ、この考えにいたる。


 そんなことを言おうものならさすがのアーネットにも煙たがられるだろう。本音など言わなくても生きてゆけるものだ。



「だからお前は連れていけないって言ってるだろ?」


 宿の前で言い争う父子がいる。


「なんだ?」


「ただの親子喧嘩さね」

 とアーネットも首を挟まない。


「サルモを見つけたら必ず戻るから」

 父が息子を宥める。


「安心しな。俺たちガイドがついてるんだ」


 サルモは呼吸が苦しくなくなるキノコだ。なぜか魔界には珍しいキノコが多いらしい。湿っているのだろうか。


「だったら俺も行くよ」

 少年はもう父親よりも背が高い。


「だめだ。エリック、頼むからここで待っていてくれ」


 父親はガイド二人を連れ、トムじいさんに通行料を払って門の向こうに消えていった。


 少年はアーネットの宿に数日滞在し、暇なときはウィルのチェストづくりを手伝っていた。


 一週間、二週間が経ち少年にかける言葉が見つからない。

 キノコの採取は長くても二、三日だ。


「目当てのキノコがないんだろう」

 と少年を元気づけていたウィルも困り果てている。


 しかしこのままというわけにはいかない。


 案の定、

「宿代を払っておくれ」

 とアーネットが催促する。


「わかりました」


 まだ幾らか金は持っているようだ。しかし、働かなければそれは尽きる。


「金が尽きるまで親を待つのか?」

 と聞いてみた。


「わからない」


 聞けば妹の具合が悪く、父はその薬を得るために魔界へ行った。母親はいないらしい。つまるところ、家族二人の命が不明。むしろ、真実を知りたくないとさえ少年は考えているのかもしれない。


「こっちから入っても別のゲートが近くて、そっちから出た可能性もある。一旦、うちに戻ったら?」

 ウィルの助言にもエリックは首を振る。


 しかし、エリックがいてよかったとこの直後、思い知る。

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