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魔界の手前で事業を展開する~追放貴族の第二の人生~  作者: 朔もと


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14 フムソン村2

 店が立ち並ぶ通りを一巡してみた。似たような品物を扱う商店や雑貨屋も多い。


 洋服屋に帽子屋、布屋まである。


 キャリリア村では椅子も家の修理もウィルとじいさんがしてくれる。ウィルのじいさんとみんなが呼んでいるのだと思ったが、じいさんもウィルという名だという。他のじいさんはトムじいさんだけなので、ただのじいさんということにした。


 二人にはアーネットの店と家具屋の間の廃屋を宿泊部屋に直してもらっているところだ。じいさんは木を使うものなら家だろうが箪笥だろうがだいたい作れるらしい。


 元楽器屋店の壁をウィルが壊す。

「勝手にしてしまっていいのか?」

 と俺が聞いたら、

「誰が反対するんだね?」

 とアーネットに言われてしまった。


「普通なら所有者の許可を取って役所に申請するんだ」


 王宮周辺ではそうだった。土地は普通、領主のものだから。


「誰のものでもないさ。そこの家の人間はそこで死んだ。みんなで葬った。だからあっちの家もそこの店ももう誰のものでもない」

 トムじいさんが言う。


「じゃあ所有権はどうなってるんだ?」


「昔は役所の出張所もあったんだがな」

 ウィルのじいさんが古い紙を取り出した。


「地図かい?」

 建物に所有者の名前が書かれている。


「そんなようなものだ」


 廃屋には『マキュロイ』と読めた。その裏は馬小屋と書いてあるようだ。


「こうしてしまえばいい」


 トムじいさんがマキュロイの名を消し、アーネットの宿を図面上で馬小屋まで拡張した。


「役所に正式なものがあってこれは写しかもしれないのに」

 俺は助言した。


「もう空き家になって20年以上経つ。役所もこんな小さな村、気にかけていないから誰も確認に来ないのさ」

 とウィルのじいさんも言った。


 悪いことをしている感じがしているのは俺だけのようだった。

 あれから幾日経ち、廃屋の使えそうな柱だけ残して、他は新しい木材を打ち付けていてすっかり家のような形になった。



 おっと、いけない。そろそろキャリリア村に帰らなれば日が暮れてしまう。少し離れたところに来ただけでみんなのことを思い出すなんて。


 アーネットの土産には皿とフォークなどを買った。鋳造所がないから村には鉄製品がない。

 かごも買いたいが、それは作れそう。土産を運ぶために背負うカゴをひとつ買った。


 帰り道、少し迷った。帰る理由などない。でも村に辿り着いたとき、ほっとした。


「おかえり」


 アーネットが出迎えてくれる。いつものシチューと共に。

 しかし、客にせがまれてハイネンの馬を勝手に貸したことは許せない。だって、きっと返しに来ることはない。

 ハイネンに申し訳ないし、畑仕事も手伝ってくれた。かわいい奴だった。

 馬のレンタルや人間だけでなく馬の小屋で預かることも考えたが維持費がかかりすぎる。場所だけでなく餌に、客の馬を死なせてしまった場合の補償など。


「帰りながら考えたんだけどニワトリを飼うのがいいんじゃないか?」

 卵と肉の心配がなくなる。畑の害虫も食べてくれるかもしれない。馬よりは絶対に金がかからない。厄介なのは、ニワトリを狙う獣の対策。


「鶏を絞めるのがね。卵だけならいいけど」

 と食堂の店主とは思えないかわいらしい発言をする。


「今頃になって足が痛いや」

 こんなに歩いたのは久しぶりだった。


「今日は疲れただろう? 早く眠りな」

 とアーネットは馬のことを悪びれる様子もなく言った。


「うん」


 栄えているフムソン村に留まるつもりなんて1ミリもなかった。でも帰って来てアーネットが待っていてくれたことが嬉しい。


 学んだこと、感じたことを日記に記す。馬がいなくなったことは悲しい。ハイネンとの唯一のつながりを証明するものだった。嘆いたって無意味。ずっとそうやって生きてきた。

 馬にとってもここに長居するとよくないと思い、アーネットは客に貸したのかもしれない。そう考えると胸がすっとした。

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