13 フムソン村1
ハイネンの馬を借りようと思ったが、そこそこデカくて目立つ。売ってくれと言われたり目をつけられたら厄介だ。
「歩いて行ってくる。留守番頼むな」
馬は鼻の周りを撫でると嬉しそうに首を左右に振った。
繁栄しているフムソン村までは、朝に出て昼には着いた。その間に人っ子一人会わない。ウィルが書いてくれた地図を頼りに森を抜けて行ったせいからかもしれない。
フムソン村には診療所もあったし警察署もあった。このふたつは絶対に人が暮らすうえで必要だ。
菓子屋はパン屋でなんとかなる。
ショーパブは人によっては必要だろうか。今日は勇者がいないからなのか店は閉まっていた。だが、踊り子たちが店の前で高笑う。あれでは自分の価値を下げてしまっていることに気づかないのだろうか。
人が多いな。キャリリア村とは比べものにならないほどだ。すれ違う人たちには活気もある。
楽器屋はここに移転していた。学校もある。宿と酒場は別々にあった。
飯処で腹ごしらえ。肉の煮込みはアーネットのほうがうまい。
キャリリア村のどこが劣っているのだろうか。全体的と決めつけるには早い。
簡易宿泊所があり、そこから出てくる強靭な体の男たちはこれから魔界へ行くらしい。
しれっとあとをついて行く。
村と魔界の間には川があって、そこを渡る橋があり、橋屋がうちの村でいうところのトムじいさんのように通行料を取り、門番をしているようだった。
先に見える門はひとつだが、橋は3つ。
「ここが一番安い木の橋だよ」
「ここはみなさんの無事を選んで編んだ蔓のつり橋です」
「さぁ、こちらへ。一番安全な石の橋ですよ」
彼らは三兄弟で、とても仲が悪いらしく、それぞれが橋を渡す賃金を奪い合っていると近くの喫茶店でウェイトレスから話を聞いた。
おしゃべりなウェイトレスは続ける。
「長男は木の倒木を削って橋を作っています。一番川上なので大雨などでよく流されるのですが、森で倒木を運んで来ればすぐに復旧します。長女は少し魔法が使えるので、蔓や蔦で編んだ橋は不安定ですがスピを信じる方には好評ですね。石の橋が私は一番無難だと思うのですが、作る際に借金があるようで次男の石の橋は料金が高いです」
「どれを渡っても同じ場所に着くなら、俺なら一番安いところでいいや」
木の橋でいい。
「長女は橋の帰還率まで出しているそうですよ」
そういうことを信じる人が多いのだろうか。
「なるほど」
あまり時間がない中でその喫茶店に滞在したのはその店も『勇者一行が選んだ店』に選ばれていたから。
「うちのオススメは、勇者が食べたオムレツに魔導士さんが好きなホットケーキ、賢者様の無限サラダ、老師の本格ラーメンです」
バラバラすぎて選べない。しかも少し前に腹ごしらえをしてしまった。
「ホットケーキを頼む」
悩んだ末に財布と相談して注文した。
「わかりました」
昼飯の時間は過ぎていたので店は混んではいなかった。
ちょうどいいポジションで橋を渡る人々を眺めた。
木の橋を渡る人に長女が声をかける。蔓のつり橋を渡る人に次男が客引きをする。話し込んで交渉されている。これでは値段が下がるばかりだ。
「お待たせしました」
ホットケーキはちっとも膨らんでいなくて、ハチミツもバターも少し。ドリンクセットで1200テカは高すぎだ。
滑稽でしかない。向こうへ渡る人たちは橋なんでどれでもいいし、こっちに残る人間は自分のために金を稼がなければならない。
ぺしゃんこのホットケーキを食べて、他にも繁盛している店を観察。
やはり品数が揃っている武具屋や防具屋は混んでいる。
賭け事の店では諍いが絶えないようだから、キャリリア村には不要だ。
かばん屋が盛況だ。
「こんなに小さく見えて魔法でなんでも取り出せるよ。包帯に食べ物、金も水も」
これはいい。しかしこれを作るには魔法使いに頼まなければならない。知り合いに魔法使いはいない。
魔法屋もあった。けがを治す薬、元気になる薬、なんでも売っている。これらも魔法使いが作って小瓶に詰めている。
やはり魔法使いを雇うしかないか。




