12 村を繁栄させるには
魚の飼育は大成功だった。
「フライにしたら臭みがないさね」
「アーネットの腕がいいからだよ。でも俺は酸っぱいタレで食いたいな」
王宮の食堂でよく食べた。
「作り方がわからない」
「王宮の近くに行くことがあったら食べてくれよ」
「行く用事がないさね」
そういうものなのか。アーネットの宿の隣りの廃屋を壊して別館を建てたいが、その届はどこへ出せばいいのだろうか。
「そこは昔、楽器屋だった」
と家具屋のウィルが教えてくれる。
「今は見る影もないな」
音楽なんて余裕のある人間のものだ。
そうか。ここの人たちには余裕も余暇もない。客だけではなく住んでいる人間もだ。退屈を好んでいるのではないだろう。ただ、魔界へ一攫千金を求めて行く人たちを見送っていると、人生を愉しめないのもわかる。
「キャリリア村を繁栄させるにはどうしたらいいのだろうか?」
「うーん」
ウィルも一緒に悩んでくれるが、頭脳派ではないことは明白だ。
「勇者一行の選んだ店に認定されればいいのじゃ」
と門番のトムじいさんが教えてくれる。
「でも、前は有名なパーティもここから出立したが、今じゃ金のない兵士たちの通過場所でしかない」
「じゃあ昔はこんな寂れていなかったってこと?」
俺は聞いた。
「そうじゃよ。昔はこの通りにずらりと店が立ち並んでいた」
とトムじいさんが答える。
ん?
勇者たちは魔王の住処を探して魔界の奥に進みつつ、こっちへ戻れる門も作っているのか。
「次に新しい門を作ったら今は栄えているフムソン村がここみたいになって、新しい門の付近の村が栄えるだろうよ」
ウィルは他人事のように言う。
「それって必要なことなのか? さっさと魔王を倒したらいいのに」
「勇者たちも向こうへばかり行っていたら瘴気にやられるからのぉ」
トムじいさんが言った。
「どれくらいの頻度でこっちへ戻って来るんだ?」
「半年に一回。一ヶ月くらいこっちで養生してまた戦いへ向かうらしい。ジェイド、王宮にいたのにそんなことも知らないのか?」
逆にウィルに呆れられる。
「ああ、確かに医局の上の人たちは勇者の治療に行ってたな。てっきり魔界へ行くんだと思っていたよ」
「勇者が村に滞在している間はお祭り騒ぎらしい」
とウィルが言った。
「へぇ。その村に行ってみたい」
偵察ではなく、単純に好奇心。
アーネットに相談すると、
「行っておいで」
とあっさり承諾してくれた。
「でも店と診療がちょうど暇な日なんてあるだろうか?」
「出かける日、ジェイドは具合が悪いってことにするさね」
「アーネットは休まず朝から晩まで働いているのに申し訳ない」
「あんたが見聞きして、それがうちの店に還元してもらうなら嬉しいよ」
アーネットはそう言ってくれるが、住民も少ないのだから客が増えても対応ができない。だからって客が常に増えなければ人が定住することはない。
俺はこの村にふらりと流れ着いたが、ラッキーなことだったのかもしれない。




