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魔界の手前で事業を展開する~追放貴族の第二の人生~  作者: 朔もと


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11 魚

 ハイネンがいたらな。きっとあいつは向こうでも人を助けて仲間を増やしているのだろう。そのスキルだけ伝授してほしい。


「孤児たちに手伝ってもらうのってどう思う?」


 家具作りは体力を使うので休憩中のウィルを捕まえて聞いてみた。


「朱に交われば赤くなると言うからな。野菜を作っても盗まれたらかなわないだろ」


「泥水が好きな魚もいるさ。そうだ、魚だ」


「魚?」


「アーネットの店は保存された塩分のきつい肉料理しかないだろう? ずっと魚が食いたいと思ってたんだ」

 それを思い出した。


「だったらあっちに川があるぜ」


「ウィルは魚食わないのか?」


「子どものときは魚釣りしたけどそんなにうまいものじゃない」


「そうか?」


 料理の方法が違うのだろうか。ふわっとして揚げても焼いてもうまいと思う。


「ええと」


 まずは川の脇に大きめの石を並べる。思っていたより浅い川だ。いや、目に見えている手前だけが浅く反対の崖側は深いようだ。


「釣りするんじゃないのかよ」


 ウィルは適度な枝を拾ってくれた。が、遊んでいる暇はない。


「こうやって魚を囲い込む。そんで真ん中に硬くなったパンを入れておく」


「そうしておけば勝手に魚が入るってことか。さすがジェイド、頭いいな。でも逃げないか?」


「大雨でも降らない限りは」


 気になるのはウィルが言う魚の臭みだ。


「ウィル、水槽とかないのか?」


「水槽?」


「きれいな水に入れておけば魚の匂いが取れるかなって」


「じゃあ酒樽は?」


「使える」


 蓋を開け、水を張って魚を入れてみた。


「こりゃいいね。すぐに料理に使えるさね」

 とアーネットも言った。


「じゃあ、あと幾つか酒樽借りるよ」


「お好きに。あとワインが高くなったから作れない?」


「そんな簡単に言わないでくれよ。大根と違って酒は発酵や蒸留に時間かかる」


「なんでもいいよ。頼んだよ」


 山にあった赤い実でも使ってみるか。


 あと生活で必要なものは。

 宿で客に売れそうなのは服だな。魔界から戻ってくる人はほとんどボロボロの格好をしている。せめて寝間着を用意しようか。使い回しは面倒だから買い取りにしてもらおう。


 アーネットに聞くと、食品や日用品はたまに業者が売りに来るらしい。酒や調味料などは絶対に必要だからアーネットは次に買う分まで予約をしているそうだ。


でも天候によっては来れない日もあるはずだ。野菜も作らずになぜ不安じゃないのだろう。そっちのほうが不思議でならない。


 今までなかったからって、これからもないとは限らない。


「やっぱり銀行を作りたいな」


 この話はアーネットよりも防具屋のレフティが興味を示す。


「金を稼いでも結局は隣の両替屋と質屋に吸い取られている気がするんだ」

 と彼は言った。


 話を聞けば、商品を売ったり、不要な武具を買い取ったりするが、栄えている街までそれを売りに行くのが面倒で結局は隣の質屋で金に換え、安く買いたたかれているらしい。


「自分のせいじゃないか」

 と思わず言ってしまった。


「わかってるさ。でも空腹ならパンを買う金が急に必要になるだろう?」


 なんだろう。この人とは会話にならない。


「今はいいけど、歳を取って街へ行くのがもっと億劫になったらもっと金を奪われるぞ」


「だから銀行に預けたいんだ」


 そんな理由なのか。しかし市井の人々にとっての銀行はそういうものなのかもしれない。


 僕は人から預かったお金で宿を拡張し、アーネットのために人を雇ってあげたい。さすればもっとたくさんの金も稼げるはず。

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