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魔界の手前で事業を展開する~追放貴族の第二の人生~  作者: 朔もと


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10 野菜を作る

 アーネットさんから呼び名がこそばゆいと言われ、敬称を省略。年上の人は『さん』づけが当たり前だったから、呼び捨てに慣れるまでに時間がかかった。


「アーネット、見て」


 俺は宿の裏の空き地を耕して大根を作った。


「大根かい?」


「ああ。このところ野菜が高くなったって嘆いただろ? 大根は大きくなったのから引っこ抜いて。そっちはニンジン。向こうの畝がじゃがいもと葉物野菜」


「ジェイド、医師なのにそんなこともできるの? あんたにはつくづく驚かされる」


「野菜の栽培もしていたんだ。野菜を大きくしたり、そういうのは医局の管理だったから。人を診察するよりも俺はこっちのほうが好きだったな」


 野菜だけでなく草花も薬草として育てていた。


「変わった男だよ、あんたは」

 とアーネットは言う。


「宿の裏の畑を広げてもいい?」

 草が伸びていて、荒れ放題。ハイネンの馬を遊ばせているだけではもったいない。


「好きにおし」


 アーネットは保存のために大根やネギを畑に伏せておくだけだった。


 野菜なんてものは種を埋めれば実る、というものではないが、ある程度手をかければきちんと育つ。それには温度と水が必須で、野菜によっては嫌光性種子だったり、じゃがいものように種芋から育てるものに分類されるが、覚えてしまえば難しくはない。


 アーネットのシチューは最高だ。玉ねぎはたくさんあったが他の野菜はそれほどではなかったので慌てて作った。


 これで安泰。


 そうだ。アーネットに言って、シチューのだしに使った骨を砕いて畑の肥料にしよう。


「それはいいけど」


「食べ残しなどはどうしてるんだ?」

 食事を提供していたら残飯はどうしたって出るだろう。


「穴を掘って埋めてるさね」


「それはどこ?」


「そこだったり、向こう。ちょっとジェイド、なにしてるの?」


 アーネットが指さしたところを掘り返す。形もなくなって、土がいい感じだ。


「堆肥になってる」


 最高だ。これを使って畑を拡大させよう。


 ああ、人手が欲しい。家具屋のウィルは二段ベッドの製作で忙しそうだし、宿の近くの廃屋に潜む孤児たちを使ってもいいが、正直関わりたくない。悪い子たちではないのかもしれない。しかし、先の見えない彼らと下手に仲良くなって、例えば亡くなっているのを見てしまったら泣いてしまう。手を差し伸べなかった自分を責めてしまう。

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