1 解雇されたので、どこへ行こうか
「フィリッポ、お前をクビにする。ただちに王宮から去れ」
おいおいおい。なんでたまたま当直していた俺がクビなんだよ。
王妃が死んだの、俺のせいなわけ?
だいたい、見習い一人に当直させる医局長にも責任がある。折角、エリートコースに乗れそうだったのに。結局、ずっと俺はついてないらしい。
ここで足掻いても無駄だ。
「かしこまりました」
従うほかない。先々代の王の親族、つまりは公爵家の人間だからこそ、家を守らねばならない。双子の兄も王家直属の騎士団に入っている。迷惑はかけられない。
医局で荷物をまとめていると、
「フィリッポには悪いが俺が当直の日じゃなくてよかった」
「まったくだ」
という同僚たちの声が聞こえてきた。
そうだよな。誰かはこの役目を引き受けなければならないのだ。医局長以外は真面目な人ばかりだし、先輩には研究がある。同僚たちも家のこと、自分の能力を伸ばすためそれぞれが目的を持って王宮の医局で働いていた。
俺は貴族の三男で、他の人たちのように上を目指してもいない。この職を選んだのも家が継げないことが確定しているから仕方なく。
つまるところ、俺でよかったんじゃないだろうか。
そう思うしかない。
「お世話になりました」
用意されていたのは荷台のみの馬車だった。御者がいるだけ、ましか。
「出立します」
そんなわけで、数年間働いた王宮を出る。
正直、ここでの生活は窮屈だった。休みはあるものの、王宮の外に出るには事前に許可がいる。だから休日もほとんど王宮内の図書館で過ごした。医学にそれほど興味はなかったけれど、人を助ける仕事は性に合っていたように思う。
お給金と家族の安心、それだけは安定していた。
双子の兄と同じで騎士を目指していたが、ケガをして5年程昏睡状態だった。奇跡的に回復した俺は、王宮医師のライゲン先生に昏睡状態から普通に生活をする数少ない事例として気に入られ、彼と話しているうちに医師に鞍替え。
一から勉強している間に婚約者は他の人と結婚した。10年以上も放置していたから無理もない。
「お客さん、すいません。どちらまで?」
御者さんが困り顔。
今回の一件で家にも帰れない。
「ええと、とりあえず左へ」
「左ね」
さてと、この先どうやって生きようか。こんな日でも空は青いな。
薬草集めをして薬局でも始めるのはどうだろう。折角身につけた医学を基に仕事ができるといいのだけれど。
「お客さん、二股にわかれるが?」
「右へ行ってくれ」
「へーい」
だいたい、王も王だ。王妃の具合が悪いにも関わらず、見舞いに来なかったくせに。それに側室が11人もいる。大事にしていなかったはずなのに死んだときだけ人のせいかよ。
「お客さん、三又だ」
「左へ」
医局の誰にも庇われなかった。俺を気に入らない輩も多かった。ライゲン先生はもう名誉なんとかの称号を得て王宮から遠いところで治療院を開いている。
あそこへ行っても迷惑だろう。




