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童話「カニと猫とカラス」

 カニはあたりをキョロキョロと見渡しました。川で昼寝をしていたはずなのに、体を洗ってくれる気持ちのいい流れもおいしそうなコケもありません。人間の子供たちの声がやんややんやと建物の中から聞こえてきました。川の近くの学校にはグランドなんていう土ばかりの広い場所があると聞いたことがありました。(いったいなんでこんなところにいるんだ?)不思議に思っていると、生臭いにおいがしました。目の前に猫がいたのです。(あ! 食べられてしまう)カニは急いで逃げようとしました。けれど、川ではありません。猫の方がすばやいに違いないので、いよいよと気持ちを決めました。

「ああ、違う違う。食べないって」

 猫はあっさりと取り繕いましたが、(油断させてパクリとする気だな)カニは睨んで両方の爪をそびえ立てました。カニの爪が本当に怖いのか猫は一歩二歩下がって、

「君はなぜここにいるか知りたいんだろ」

 早口になりました。

「知っているのなら、ぜひ教えてください」

 カニも早口になりながら猫に近づきました。

「ああ、わかった。だから、そう爪を向けないでくれ」

 いさんで爪を振ったせいで猫をおびえさせてしまったようで、

「申し訳ない、そんなつもりはないので」

 爪を下ろしました。すっかり恐縮してしまったので猫はクスリとしてから、

「君はね、カラスがついばんで来たんだよ」

 猫は空を見上げました。

「カラス!」

 カニはびっくりして、それにビビりました。カラスなんてついばまれるどころか、とっくに食われていてもおかしくない。

「それにしてもカラスはどこぞに行ったんだろうな。来た方に戻るなんて。調味料でも取って来て君にかけるのか?」

 猫は首をかしげました。カニはブルブル震えながら猫をにらみした。

「冗談だって。ほら、機嫌直るよう送って行ってやるよ。背中に乗りな」

 猫が申し訳なさそうに体をかがめると、カニはその背に乗りました。

「じゃあ、行くぜ」

 猫は走り出しました。カニはこんなに速く進んだことがなかったので驚いて、またワクワクしました。

ほどなくして川に着きました。

「ありがとう。なんにもお返しするものなんてないけれど」

「お返しが欲しくて来たわけじゃないさ」

 川岸で、かがんだ猫の背からカニは降りて一礼しました。そこへ、

「あーここにいたのか」

 カラスがヒューと舞い降りてきました。カニはそそくさと猫の陰に隠れ、猫は牙を見せてかまえました。

「ああ、違う違う。戦いに来たんじゃない」

 カラスは慌てて羽を振りました。

「後ろにいるカニに用事があるんだよ」

 猫はちらりと振り向くとカニはすっかりおびえていました。

「このカニをグランドに運んだのは食うためじゃないのか」

 牙をおさめ、猫はカラスの様子をうかがいました。

「食うなら、取ったここで食ってるさ」

「だな。なら、なんでだ?」

 震えるカニの代わりに猫は尋ねました。

「ここ、すぐ海だろ。魚が上がって来てたんだよ。逃げればいいのに、カニは動かない。しょうがないから挟んで飛んだってわけさ」

 カニはゆっくりと猫の横に並びました。

「本当ですか?」

「ひとっ飛びしたらグランドまで行ってしまって魚の様子を見てからグランドに戻るとどこにもいなくて、道すがら猫に乗ってたと犬から聞いたからもしかしてと思って」

 カラスがおだやかにしゃべるものですからカニも緊張が和らぎました。その時、川面がバシャリと動きました。

「魚だ!」

 猫が俊敏に動いて、川面からちょこっと出た魚の頭にパンチをくらわすと、魚は岸に上りピチピチと跳ねてから動かなくなりました。

「ではご相伴と行きますか」

 猫はカラスを呼び寄せました。

「いいんですか? 分けてもらって」

「ええ、カニのおかげですかね。こんなご馳走をいただけるなんて」

「そうかもしれませんね、猫からいただきものされるなんてことありませんからね」

 猫とカラスに深く礼をされたカニはモジモジして恥ずかしそうにちょこんとお辞儀をしてから川へいそいそと戻って行きました。


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