私の内に潜む者
私がそれを自覚したのは、丁度、第二次性徴を迎えた時だった。胸が膨らんでいくのと同時に私の中で、それの萌芽が目覚めた。
心臓が脈打つ度、呼応するように、それも脈を打った。私は私を取り巻いている現象を誰にも打ち明けることができなかった。母であれ父であれ、幼年期から共に長い時間を過ごした友人にさえ。
今、思うと、それが邪魔をしていたのだと思う。
私たちの共生を邪魔するなと、それは私の無意識下に潜り込み、私の口を閉ざしたのだ。
それとの、共生は私にとって、苦痛そのものだった。ある時は耳鳴りとして現れ、またある時は、心臓が早鐘を打ち、私を苛んだ。
このままではいけないと私の直感が告げていた。
やっとの思いで決心し、私は、幼年期を共に過ごした友人へ、秘密を明かす。
「変な話かもしれないけど、聞いてくれる?」
「君の話ならなんでも聞くよ」彼はそう言い、私の震える手を握ってくれた。春の日差しのような暖かさが彼の手から伝わってくるのが感じられた。
「私の中。きっと、あなたには分からないしれないけど、私の魂の中には、私とは別の何かがいるの」
「興味深いね。でも何となく僕も気づいてはいたんだ。君の変化に」
気づいていた? 私の変化に?
「でも、君が打ち明けてくれるまで、僕は何もできなかった。僕は超自然的な物、例えば神とか仏とか幽霊とか、そういった類の物を信じてしまうタイプの人間だから、君の内にいる、それが僕にも何かしらの影響を及ぼしていたんだと思う」
そういえば、彼はそういうタイプの人間だったなと私は、そこで改めて気づかされた。
中学を卒業する間際、彼はこう言ったのだ。
「僕と君は、別の高校へ進むけれど、僕と君の道は……確信を持っては言えないけれど、いずれ交わると思うんだ」
そして、今私たちは私の秘密の共有を共有した。
「確証はない。けど、君の内に巣食うそれは、悪いものではないと思う」
「どういうこと?」
「例えるなら、使い方によっては、毒にも薬にもなる、って感じかな? 曖昧な言い方しかできなくてごめん」
「謝らないで。話を聞いてくれるだけでも、私にとっては嬉しいから」
少しの間、私たちは黙って春の暖かな陽光に包まれていた。ずっと、こうしていられたらいいのにと思う。それが、叶わない夢だとしても、夢は全ての人に与えられた縁だと思うから。
「話たくなったら、またいつでも連絡して」
彼はそう言って、去って行った。私は見逃さなかった。彼の双眸に憐憫が灯っていたことを。
そのまま、時は流れ、冬になった。雪がしんしんと降る寒空の下、私は、この手記を書いている。
私のせいで彼は死んでしまった。
彼はもう戻らない。私の内に潜む者、もう一人の私が彼を殺してしまったから。私は、彼の死に行く様を見ていることしかできなかった。彼の腹を裂き、臓物を食い荒らすもう一人の私を。
もう抑えられそうにない。私は人の味を知ってしまった。もう何人食べたのかもわからない。私ともう一人の私の境界が曖昧になっている証左だ。
だから終わらせる。私自身の手で。これ以上、人を食べないために。ポケットからナイフを取り出し、首元に押しつける。
「あぁ、美味しかったなぁ」
読んで頂き、ありがとうございます。掌編というより、断片と言ったほうが適切かもしれませんね。




