第5話 親友ができたおもちちゃん
おもちと稲見が外に出ると、空が夕焼けに染まっていた。
「これで反省するでしょ!」
「どうでしょう……」
おもちは不安そうな表情をしている。
「大丈夫!また何か言われたら私を頼って。ギャフンと言わせてあげるから!」
「ありがとう……ございます……」
「さてと……先生との話が長すぎて疲れちゃったなぁ~これからカフェ行かない?」
「えっ?」
「私が奢ってあげるからさ!行こうよ!」
稲見はおもちの返事を聞く前に手を引っ張ると、カフェに向かって走り始めた。
「お待たせしました。三種のフルーツジャンボパフェとチーズケーキです」
「ありがとうございます!」
店員が去ると、稲見はスプーンを手に取る。
「おもちちゃんはそれでいいの?値段気にしなくてもいいんだよ?」
「大丈夫です。チーズケーキ好きなので」
「そう?」
稲見はスプーンでフルーツアイスを取ると、パクッと口に入れる。
「美味しい~!」
「美味しそうに食べますね」
「だって美味しいんだもん!一口食べる?」
「いえ……大丈夫です。ありがとうございます」
「美味しいのに……」
おもちはパフェを食べる稲見をじっと見つめる。
「あの……聞きたいことがあるんですけど……」
「何?」
「どうして……見ず知らずの私に声をかけたくれたのですか?」
「う~ん……理由はないかな~?」
稲見がアイスを口に入れる。
「泣いてる人を見かけたら声かけるでしょ?」
「……」
おもちは職員室での出来事を思い出す。
おもちの担任に訴える稲見を。
会って1時間も経っていない私のことを助けてくれた。
それが勇気の源になったのか、自分で相談することができた。
「それにしても、あんな酷い女が大翔君を狙うとか許せない!だから私も警戒されて、誘惑が効かないのよ!」
「……河野さんも大翔君が好きなの?」
「うん!大好き!」
稲見がニコッと微笑む。
「でも勘違いしないでね。私はお金目当てじゃなくて本当に大翔君が好きなの」
稲見は思い出す。大翔と初めて出会った頃を―――
数学の時間。生徒たちは先生の指示で、教科書の問題を解いていた。
(どうしよう……一問も分からない……)
稲見は数学が苦手で、基礎から理解できていなかった。
教科書を見て解こうとするが、見ても分からない。
「そこまで。じゃあ誰に答えてもらおうか……」
先生が生徒たちをじっと眺める。
(どうか当たりませんように……)
そう祈っていたが……
「河野。黒板に書いてくれ」
それを聞いた瞬間、稲見は絶望した。
(どうしよう……)
稲見は足を震わせながら、椅子から立ち上がる。
(答えだけなら適当に書けるけど……式はなんて書けば……)
すると、後ろから声が聞こえた。
「ねぇ」
ビクッと反応して振り向くと、後ろの席に座っていた大翔が紙を渡した。
「計算用紙落としたよ?」
「えっ?でも私……」
「ノートに書いてないんだからこれ見ないと分からないでしょ?」
「……ありがとう」
計算用紙を受け取り、黒板の前に立つと、震える手でチョークを握りしめる。
「どうした?」
「い、いえ!」
計算用紙をチラッと見ると、式と答えが書かれていた。
(もしかして……)
書かれた通りに書くと、ドキドキしながら先生を見つめる。
「正解」
それを聞いてホッとすると、席に戻る。
「ありがとう齋藤君。助かったよ」
「礼はいらない」
「なんで助けてくれたの?」
「別に……ただの気まぐれだよ」
「本当に?」
「あぁ。次から助けることはない」
「そんなぁ~」
「だが……もし答えられない場合は俺の顔を見ろ。計算用紙を渡してやる」
それを聞いて、稲見はドキッとする。
「なんだ。助けてくれるんだ」
「助けるんじゃない。お前の間違いなんて誰も見たくないだろうから、そいつらの意見を代弁しているだけだ」
「はいはい。そういうことにしておいてあげるね!」
「お前なぁ……」
―――「大翔君はいつも私に対しては冷たいけど、時々優しくしてくれる。その時々見せてくれる優しさが好きなの。
恋人になって、その優しさをいつも出してくれたらなぁ~……」
「……本当に大翔君のことが好きなんですね」
「うん!もしかしておもちちゃんも大翔君のこと好きだった?」
「い、いえ!私と大翔君はただの友達なので……」
「よかった!おもちちゃんが恋の宿敵にならなくて」
稲見は安心すると、アイスの最後の一口をパクッと咥えた。
カフェを出ると、稲見は満足そうな表情をしていた。
「いっぱい食べたね!」
「ごちそうさまでした……」
おもちが頭を下げる。
「いいって!また行こうよ!」
「はい……」
「また学校でもたくさんお話しようね!私とおもちちゃんは親友なんだから!」
「親……友……」
口に出した言葉の響きに不思議な感情を覚える。
「ごめん!勝手に親友とか言われたら嫌だよね?」
「いえ……嬉しいです」
「よかった!」
稲見は嬉しそうにする。
「じゃあまたね!おもちちゃん!」
「う、うん!」
稲見が手を振ったので、おもちも手を振り返す。
(私……今、普通に返事した?)
普通に返事したのは母親以外だと久しぶりだった。




