第29/29.5話 久しぶりに登校したおもちちゃん/御曹司の祖父
※本日の投稿は短編2つで掲載します。
第29話『久しぶりに登校したおもちちゃん』
翌日。おもちが教室に入ろうとすると、稲見と目が合う。
「あっ!おもちちゃん!」
「稲見ちゃん……」
稲見が心配そうにおもちに近寄る。
「大丈夫?連絡ないから心配してたんだよ?」
「ごめんね。体調悪くてスマホを見てなくて……」
「……本当に?」
「……?うん」
「また……嫌なことされてない?」
稲見が言っているのは真奈美のことだろう。
彼女が大翔のことを好きなのは知っている。
だから、大翔と仲が良いおもちを敵視している。
稲見からすると、真奈美がやっていることはただの八つ当たりにしか見えない。
おもちが体育祭を早退してから、真奈美の機嫌が良かったことも違和感しかなかった。
「……されてないよ。大丈夫」
「本当?」
「だから心配しないで」
「……わかった。でも何かあったら言ってね」
「うん。ありがとう」
そう返事しても、稲見の心配そうな表情が変わらない。
「稲見ちゃん。本当に大丈夫だから」
「うん……」
おもちが教室に入ろうとすると、稲見が後ろから訴える。
「私に話せないことがあっても……大翔君になら話せる?」
「……!」
「大翔君は……おもちちゃんを大切に想ってる。必ず力になってくれるよ」
「……」
「だから……頼ってね……」
おもちの心に届くことを願って、稲見は教室に戻って行く。
(私を……大切に……)
私だけじゃない。稲見ちゃんのことも大切だと思ってるよ……
SHRが終わり、真奈美はおもちをじっと見つめていた。
(そのまま不登校になってくれてよかったのに……)
久しぶりに登校したことに対して、少し不機嫌になりながらも、このまま計画通りにいけば大翔は自分の彼氏になる。そう思うと、機嫌はすぐ直った。
「ねぇ」
近くにいた取り巻きの一人を呼ぶと、口を開く。
「もうすぐ文化祭だけど……私の言ったこと覚えているわよね?」
「う、うん……」
「計画通りにお願いね」
「あの……真奈美ちゃん……」
「何?」
「やっぱりやめようよ……こういうこと……よくないよ……」
「……は?」
真奈美の睨みに、取り巻きがビクッとする。
「何それ。私に大翔君と付き合うなって言いたいの?」
「そ、そういうわけじゃ……」
「別にいいわよ。抜けたいなら抜けて。彼氏に浮気のことバラされてもいいのなら」
「そ、それだけは!」
「じゃあ大人しく言うこと聞いて。分かった?」
「……分かった」
取り巻きが怯えながら、自分の席に戻ると真奈美は手鏡で自分の顔を見つめる。
(早く文化祭始まらないかしら?)
大翔が自分の彼氏となる日が刻々と迫っていた。
第29.5話『御曹司の祖父』
学校が終わり、大翔が校門を出ると博俊が待っていた。
「お疲れ様です。お坊ちゃま」
「……学校まで来なくていいって言ったじゃん」
「車内で待つのは意外と退屈なのですよ」
「いつも早く来るからでしょ?」
「渋滞になったら迷惑をかけてしまいますので」
「今日は別にいいだろ。爺ちゃんの家なんだから」
久しぶりに会う祖父の顔を思い浮かべた。
リムジンを駐車場に停めて、二人は祖父が住む屋敷に向かって歩き始める。
「着いた……」
大翔が立派な屋敷を見上げる。
「久しぶりだな。ここに来るのも……会うのも……」
インターホンを押すと、祖父の執事が出てきた。
「お久しぶりです。大翔様」
「どうも……」
「会長は部屋でお待ちしております。ご案内いたします」
「大丈夫です。覚えているので」
屋敷の中を歩き、ある一室の前に止まると、ドアをノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
ドアを開くと、貫禄のある老人が豪華な椅子に座っていた。
「おぉ大翔……大きくなったなぁ~」
「久しぶり。爺ちゃん」
老人―――斎藤鎌足は高校生になった大翔を見て、ニッコリと微笑む。
「わざわざすまないのぉ~忙しいのにこんなところに呼び出してしまって」
「ううん。中学生の時から会えていなかったし」
「そうじゃな。杏も小さかったから儂のことを覚えていないだろうなぁ……」
「そうかもしれないね。ところで、話って何?」
「実はな……大翔にお見合いを提案したくてな」
「……お見合い?」
「大翔はいずれ斎藤ホールディングスを継ぐつもりじゃろ?それに関してはもちろん儂も昴も賛成じゃ。
しかし、儂が社長だった時から取引している会社の社長が親友でのぉ。お互いの孫に見合いをさせないかと提案が来たんじゃ」
「……」
「向こうの会社の孫娘と婚約することで、儂が死んだ後も会社の関係が強固になる。悪くない話だと思うんじゃが……どうだい?」
大翔は黙ったまま鎌足の顔を見つめる。
「……ごめん。その提案は拒否するよ」
「なんと……それはまたどうして……」
「爺ちゃんの言う通り、悪くない話だと思ってる。会社にとってはそれがプラスになるかもしれない。でも……僕には好きな人がいるんだ。だから……ごめん」
大翔が頭を下げる。
「……そうか」
そのトーンは残念そうな声だった。
「まさか大翔に好きな人ができるとは……思いもしなかった」
「そうだね。僕も驚いてる。だから……人を好きになるって、こんな気持ちなんだって」
おもちを思い浮かべると、不思議と笑顔になる。
「告白しないのかい?」
「う~ん……おもちちゃんは僕のことをどう思っているのかなって考えたら……自信ないかな」
「もったいないぞそれは。儂は一目惚れした瞬間にすぐ告白して、婆さんと結婚できたからのぉ」
「付き合うまで時間かかったって言ってたじゃん」
「儂がいかにいい人か気づくまでに時間がかかったんじゃよ」
鎌足がゆっくり立ち上がって、大翔に近寄る。
「大翔なら大丈夫じゃ。儂が保証する。はっきり言うと昴よりもいい男だと思っているからな」
「爺ちゃん……ありがとう」
「話のためにわざわざ呼び出してすまなかったな。お見合いは儂が断っておくから、安心しな」
「でも……会社の関係悪くならない?大丈夫?」
「問題ない。大翔が心配するようなことは起きないから安心しろ。多分」
「多分って……」
「儂にできることがあったら何でも言ってくれ。力になるぞ」
「大丈夫だよ……ってそうだ。一つお願いがあるんだけど」
「何じゃ?金が欲しいのか?」
「違うって。お金よりも欲しいものがあるんだ」
「ほう?」
大翔がお金より欲しいもの……それは……
「母さん……大森明美がどこにいるか知ってる?」
大翔が屋敷を出ると、博俊が後ろからじっと見つめる。
「何?文句ある?」
「特に。私への命令は『明美様の場所を教えるな』ですので。私が教えたわけではございませんから問題ないかと」
「そう。ならよかった」
大翔が持っているのは母親がいる場所の住所が書かれたメモだった。
(文化祭が終わった頃に会いに行くよ。母さん)
小さい頃、印象的だった明美の笑顔を思い浮かべていた。




