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図書委員のおもちちゃん  作者: 鵲三笠


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第28話 不登校のおもちちゃん

「……」


朝。教室で大翔はスマホの画面をじっと見つめていた。

画面にはおもちとのメールが映っていて、何度も送信しているメッセージの既読はまだついていなかった。


「大翔君……今日も休みだって」

「……そっか」


体育祭が終わってから、おもちは学校に来なくなった。

最初は体調不良で休んでいると思ったが、稲見がメールを送っても既読がつかないらしい。


「見る余裕もないほど体調が悪いのか……もしくは学校に行きたくない理由があるのか……」

「……」

「もし後者なら心当たりがあるんだけど……」


稲見は体育祭の時に、大玉転がしを終えた真奈美が喜んで戻って来たことを思い出す。

最下位だから喜んでいるのは変だし、楽しかったのが理由だとしても、最下位が確定してから、めんどくさそうにゆっくりと転がしていたのが観客席から見えていた。

稲見にはまるで邪魔者を排除して満足したかのような笑みに見えていた。


「とりあえず放課後行ってみるよ」

「でも今日ゼミだよ?おもちちゃんの家に着くの夜になるんじゃ……」

「だから休む。授業の復習なんてゼミがなくても自分でできる」

「えぇ⁉なら私も……」

「今日のゼミは数学。河野は尚更受けないといけないだろ?」

「そうだけど……」

「課題とかあったらメールしてくれ」


チャイムがなり、稲見が不満そうな顔で席に戻った。



同時刻。家であずきは心配そうな表情でおもちの部屋を見つめる。


(今日も行けないのかしら……)


部屋のドアをノックする。


「おもち。大丈夫?学校行けそう?」


おもちはベッドの上で、布団を被った状態で返事する。


「……ごめん」

「体調治りそうにないなら、仕事休んで病院一緒に行くよ?」

「大丈夫……今日治ると思うから……」

「……そう?」


あずきは鞄を持って、玄関のドアを開けると、心配そうに振り返る。


「何かあったら電話してね。すぐ戻るから」

「……うん」


ドアの閉まる音が聞こえると、おもちは枕に顔を沈める。


(どうしよう……行くのが怖い……次の言い訳探さないと……)


顔を横に向けると、スマホが視界に入る。

何度も大翔や稲見からメールがきているが、見るのが怖くて電源を切っていた。


(心配してるのかな……それとも……)


もう一つの選択肢を考えるのが怖くて、頭を布団で隠した。



しばらくの間、一人で過ごしていると『ピンポン』とインターホンが鳴った。


(宅配便かな……?)


ドアを開けると、大翔が立っていた。


「大翔……君?」

「ごめんね急に来ちゃって。連絡繋がらないし、心配だったから」

「それは……ごめんなさい……とりあえず中に入ってください……」

「お邪魔します」


玄関に入ると、靴を脱ぐ。


「すみません……狭い家で……」

「そう?普通の家だと思うけど」

「ところで……どうして家の場所が分かったのですか?」

「前におもちちゃんのお母さんが家に来てさ。よかったら遊びに来てくださいって教えてもらった」

「そう……なんですか……」


部屋に案内すると、麦茶を用意する。


「どうぞ……」

「ありがとう」


大翔が麦茶を飲むと、口を開いた。


「体調は大丈夫?」

「はい……」

「そっか……よかった」


安堵した声を聞くと、本当に自分を心配してくれていたんだと思う。

そう思うと、自分を幻滅するかもしれないと恐れていたことに申し訳ないと感じる。


「明日から行けそう?」

「それは……」


おもちの表情を見て、大翔は話題を切り替えた。


「そういえばおもちちゃんって次のクラスは文系と理系どっちを選ぶの?」

「私は……文学部に行きたいので文系を選ぼうと思って……」

「へぇ~……文学部……どうして?」

「私……図書館司書になりたくて……」

「えっ……?」


その返事を聞いて、おもちがビクッとする。

変な夢だと思われたかな……


「似合ってるよ!おもちちゃんに!」

「……えっ?」

「おもちちゃん本に詳しいからさ。本の仕事に就くのかなって思ってたから。いい夢だね」

「……ありがとうございます」


肯定されるってこんなに嬉しいんだ……


「大翔君……あの……」

「何?」

「実は私……体調が悪かったわけじゃなくて……その……」

「ゆっくりで大丈夫だよ」


焦って話そうとするおもちを察したのか、優しい表情で見つめてくる。


「この前の体育祭で……大玉転がしで失敗しちゃって……自分って本当にダメな人間だなって思っちゃって……皆に責められるんじゃないかと思うと……

学校に行けなくて……」

「どうして自分がダメな人間だと思うの?」

「だって……上手くできなかったし……そのせいで最下位になっちゃったので……」

「別に上手くできなくてもいいんじゃない?」

「えっ……?」

「上手くできなかったといっても、体育祭っていう高校のイベントなんだし、それに勝敗関係なく楽しくやるのが本来の目的なんだからさ」

「でも……できない人間って思われてたら……」

「人間にできないことがあるのは当たり前だよ。頑張ってもできないならしょうがないじゃん」


自分の不安を徐々に打ち消していく大翔に対して、不思議な感情を抱く。


「できないことはできないんだからさ。自分ができることを考えてみてよ」

「自分が……できること……」

「俺はおもちちゃんができることを知っている。本に詳しいし、テストの点数も高い。料理も上手だよね?」

「……!」

「できないことを咎める人がいたら、できないって正直に言うしかない。それを恥ずかしがる必要はないよ。咎める人はおもちちゃんができることをできないしね」


大翔君は自分ができることを知っている……

今まで自分を理解してくれる人がお母さん以外にいなかった。

お母さん以外に……理解してくれる人が……目の前にいる……


「そろそろ戻らないと。外が暗くなっちゃう」


鞄を持って、立ち上がると部屋を出ようとする。


「無理して来る必要はないよ。また学校で会えるのを楽しみにしてるね」


お邪魔しましたと言って、玄関に向かおうとすると、おもちが手を掴んできた。


「……おもちちゃん?」

「あの……その……」


どうして自分は引き留めようとしたのだろう……体が勝手に……

何と言おうか考えていると、玄関のドアが開く。


「ただいま~……ってあら?」


仕事帰りのあずきが、大翔が来ていることに気づいた。


「大翔君じゃない」

「お邪魔してます」

「おもちが呼んだの?休んでいる間大翔君……って言ってたもんね」

「えっ?」

「ち、違っ!お母さん!」


おもちは恥ずかしそうに顔を赤面させる。


「フフッ。内緒だった?ごめんね」

「私が呼んだんじゃなくて……大翔君が……」

「そうなの?来てくれてありがとね」

「いえ……それじゃあ僕はこれで……また明日!」

「は、はい!」

「また遊びに来てね」

「ありがとうございます!」


大翔が家を出ると、あずきがニコニコと笑顔でおもちを見る。


「今度泊りに来てもらう?」

「だ、大丈夫!」


大翔が電車に乗車し、家の方へと向かう。


『休んでいる間大翔君……って言ってたもんね』


あの言葉は本当だろうか?本当なら……


(来てよかったかもしれない……)

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