第25話 始業式のおもちちゃん
とある日の朝。光星学園の生徒が登校していた。
今日は始業式。友達との久しぶりの再会を喜ぶ生徒もいれば、授業が始まってしまうことを嫌だと感じてしまう生徒もいる。
「ひ、大翔君!」
後ろを振り返ると、少し頬を赤くしたおもちが立っていた。
「おはよう。おもちちゃん」
「お、おはようございます!」
「どうしたの?いつもより声高くない?」
「そ、そうですかね?」
「もしかして学校が楽しみだった?」
「そうかもしれません……」
「そっか。俺も楽しみだったからさ。久しぶりに……」
おもちちゃんに会えて……という言葉を口にせず、次の言葉に切り替えた。
「教室まで一緒に行こうか」
「は、はい!」
二人が校舎に入ると、教室に向かって歩いていく。
「今日は始業式だから気が楽だね。授業もLHRだけだし」
「そうですね」
「宿題終わってる?」
「もちろん。7月中に終わらせました」
「あの量を?さすがだね」
「そんなことないですよ」
話している間に自分たちの教室がある階に着いた。
「またね。おもちちゃん」
「はい……」
お互い手を振ると、自分のクラスの教室に入る。
「大翔君おはよう!」
稲見が元気な声であいさつする。
「おはよう」
「大翔君……おもちちゃんと話している時とトーン違くない?」
「気のせいだよ」
「そんなにおもちちゃんと会うの楽しみだったんだね」
ニヤニヤしながら見つめてくる稲見を無視して、席につく。
「ねぇ~何か言ってよ~」
「さっさと席つけよ。チャイム鳴るぞ」
「照れ隠しめ」
「なんか言ったか?」
「はいは~い。席つきますよっと」
稲見が去ると、隠すように横に向いていた顔を正面に向ける。
(あいつ……勘がするどいな……)
始業式が終わり、始まったLHRで、おもちのクラス担任が黒板に何かを書いていた。
「今月にある体育祭の出場種目を決めるぞ。どれか一つには必ず出てもらうから考えておいてくれ」
「何出ようかな……」
「やっぱりリレーでしょ?」
「でも出たい人多くね?」
クラスメイトたちが話す中、おもちは黒板に書かれた種目をじっと見つめる。
(どうしよう……私、運動できないし……)
よく見ると大玉転がしがある。これなら特に運動能力は問われないだろう。
「では決めた人から名前を書いてくれ。定員越えはじゃんけんだからな」
ぞろぞろと前に集まっていく。
おもちがチョークを持って、大玉転がしのところに自分の名前を書く。
「全員書き終わったか?定員越えのやつはじゃんけんしてもらうとして、定員内の種目はこれで決定だな。確認するぞ。大玉転がしは、佐藤、田中、鈴木、山口、善哉、福田だな」
「えっ……?」
おもちが真奈美の方を見ると、真奈美が微笑んでいるのが見えた。
(よろしくね。おもちちゃん)
心の声が伝わったのか、おもちがブルッと震える。
(楽しみね……体育祭……)
真奈美は自分の計画通り進んでいくことに対して、自分の笑みを隠すことに必死だった。
学校が終わり、教室を出ると大翔のクラスに向かう。
(大翔君……いるかな……?)
ひょこっと少しだけ顔を覗かせて、教室を見るが、姿が見当たらない。
(帰ったかな……?)
帰ろうとすると、後ろに稲見がいた。
「やっほ~おもちちゃん!」
「うわっ!」
驚きすぎて思わず頭を壁にぶつける。
「痛~っ!」
「ごめんごめん。もしかして大翔君探してた?」
「うん」
「もしかして一緒に帰りたいとか?」
「う、うん……」
おもちの頬が赤くなっていく。
「春だねぇ~」
「……?夏だけど……?」
「あ~……そういう意味じゃなくて……」
説明しようとすると、大翔がやって来た。
「何話してるの?」
「あっ!大翔君!」
稲見はニヤリと笑うと、大翔に駆け寄る。
「なんか~おもちちゃんが~どうしても~大翔君と帰りたいんだって~」
「えっ?」
「ち、ちょっと!稲見ちゃん!」
おもちが赤面する。
「……そうなの?」
「……はい」
お互い恥ずかしくなる空間になったことに対して、稲見はニヤニヤする。
「あらあらお二人さん。顔が真っ赤ですよ?」
「い、いや……これはその……」
「い、稲見ちゃんのせいだよ!」
「どうして?私はおもちちゃんが緊張して言えないと思ったから代弁してあげただんだよ?」
「い、言えるもん!」
「もん!って言うおもちちゃん可愛いね」
「~~~!」
「さて、満足したし私帰るね。バイバイ」
稲見は面白い物が見れた!と嬉しそうに帰っていく。
「ち、ちょっと待ってね。すぐ準備するから」
「は、はい……」
恥ずかしすぎて、早くこの学校を出たい気分だった。
二人が歩いていると、大翔はふと何かを思い出して立ち止まる。
「ごめん。先生に出さないといけない書類があるの忘れてた。職員室行っていい?」
「はい。大丈夫ですよ」
職員室前に着くと、大翔は書類を取り出す。
「ちょっと待ってて」
中に入るのを見ると、廊下でじっと待つ。
すると、近くから二人の声が聞こえてきた。
「なんで提出を最初の授業にしてくれないかな~」
「優が悪いんだよ?丸付け忘れるんだから」
「めんどくさいから後回しなんだよ」
「早く出してきて!」
「はいはい」
優と呼ばれた先輩と思われる男子が中に入る。
「あっ!おもちちゃん!」
「雪宮先輩……お、お久しぶりです……」
「その……親友とは仲直りできた?」
「はい。おかげさまで……ありがとうございました」
「私はただ自分の意見を言っただけだよ」
ドアが開き、優が出てきた。
「出せたぞ~……って誰と話してるの?」
「前に会った後輩だよ。相談に乗ったからさ」
「こんにちは……」
「うちの食いしん坊がお世話になってます」
「食いしん坊じゃないもん!」
穂乃花が頬を膨らませて、優の両肩をポカポカ叩く。
「痛いって……」
「二人って仲いいんですね」
「穂乃花が俺のこと好きすぎるからな」
「それは優も同じでしょ?」
「無事に出せたし、帰ろうか」
「うん!」
穂乃花はおもちの方を向き、ニッコリ微笑む。
「おもちちゃん!また何かあったら相談してね!」
「は、はい!ありがとうございました!」
おもちが頭を下げる。
「早く優の家に行きたい!」
「いつも来てるだろ」
「そうだけど……やっぱり家で一緒にいたいもん」
おもちは仲良く話す二人をじっと見つめる。
(いいなぁ……私もあんな風に……大翔君と並びたい……)
でも……それは叶わないだろうと思っている。
暗い表情になっていると、大翔が出てきた。
「お待たせ。行こうか」
「……はい!」
思っていたことを忘れるように返事をすると、歩き始めた。




