第11話 御曹司の家で暮らすおもちちゃん
とある病院で、一人の女性が車椅子で自分の病室に移動していた。
(まさか骨折するとは思わなかったわぁ~)
あずきは骨折した足を見ながらはぁ~とため息を吐く。
(おもちに迷惑かけちゃったけど……大丈夫かしら……)
病室に戻ると、同じ部屋のおばあさんが呼ぶ。
「善哉さん。娘さんが来てるわよ」
自分のスペースを見ると、おもちが立っていた。
「おもち!来てくれたんだ」
「うん。リハビリに行ってたんでしょ?」
「そうなのよ~。松葉杖で歩くの大変だわ」
あずきは自分のスペースまで移動すると、車椅子からベッドに移る。
「ごめんね。迷惑かけちゃって」
「ううん。気にしないで」
「でも一人じゃ家事とかできないでしょ?」
「実は友達の家にお世話になってるんだ」
「あらそうなの?退院したらお礼を言わなくちゃ」
おもちは元気そうに会話するあずきを見て安心する。
「どれくらいで退院できそう?」
「リハビリ次第だって。だからまだ分からないのよ」
「そうなんだ」
「だからお世話になってる家には申し訳ないって伝えておいて」
「わかった」
ガチャッと玄関のドアを開き、家に入ると博俊が出迎える。
「おかえりなさいませ。おもち様」
「ど、どうも……」
「お荷物お持ちいたしましょうか?」
「いえ……自分で運びます……」
「かしこまりました。夕食の時間になりましたらお部屋までお呼びいたしますね」
「いつもありがとうございます」
おもちが部屋に入ると、荷物を置く。
(ここでの生活まだ慣れないなぁ……)
大翔の家で過ごし始めてからおもちは博俊からお嬢様のように扱われることに慣れずにいた。
(お金持ちって凄いんだなぁ……)
おもちが大翔の家の凄さを改めて認識すると、鞄から宿題を取り出す。
(期末テストも近いし、頑張らないと……)
1時間ぐらい宿題をしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「おもち様。夕食の準備が完了しました」
「は、はい!今行きます!」
筆記用具を片づけると部屋を出た。
食事部屋に向かうと、席に大翔と杏が座っていた。
「お姉ちゃん!私の隣に座ってよ!」
杏が手招きする。
「う、うん……」
おもちが杏の隣に座ると、博俊が料理を持ってやってくる。
「お待たせしました。本日の夕食でございます」
大翔たちの机に豪華な料理が並べられる。
「「いただきます」」
おもちがステーキを口に運ぶ。
「美味しいです」
「ありがとうございます」
博俊が頭を下げる。
「おもち様はお坊ちゃまと違って食べ方がしっかりしていますね」
「そ、そうですか?」
「悪かったな。あのクソ親父が何度もやり直しって言うから嫌気がさしたんだよ」
「そうは言いますがいずれ社長になるのなら大事ですよ?」
「努力するよ」
「……」
おもちは食べる大翔をじっと見つめる。
(大翔君ってお父さんと仲良くないのかな?なんでだろう?)
疑問に思うが、家庭にはそれぞれ事情がある。口には出さず、胸の奥にしまった。
「お姉ちゃんお姉ちゃん!」
杏はおもちが齋藤家に来てから懐くようになった。
姉のように慕っていて、一緒に話すことも多くなっている。
「今日一緒にお風呂入ろうよ」
「えっ?私と?」
「うん!」
「いいよ。入ろっか」
「やった!」
嬉しそうな顔をすると、大翔を睨みつける。
「あっお兄ちゃんはダメだよ。男子禁制」
「入らねぇよ……」
齋藤家の大きなジャグジーバスに二人が入ると、杏は気持ちよさそうな顔をする。
「はぁ~部活終わってからのご飯食べて~その後のお風呂最高ぉ~」
「杏ちゃんって部活何やってるの?」
「私テニス部なんだ!全国大会出場を目指して頑張ってるの!」
「へぇ~凄いね」
「大会に出場できたらお姉ちゃんも応援しに来てね!」
「うん!」
杏は少し黙った後、気になったことを聞いた。
「……お姉ちゃんってさ、お兄ちゃんのこと好き?」
「えっ⁉」
おもちの顔が赤くなる。
「べ、別に好きってわけじゃ……大翔君とは友達だから……」
「ふ~ん……そうなんだ。ごめんね急にこんなこと聞いて」
「大丈夫だけど……なんで?」
「大翔《お兄ちゃん》はおもちのこと好きな気がしたから」
「……えっ?」
それを聞いておもちは杏の顔をじっと見つめる。
「お兄ちゃんがあんまり人と関わってこなかったのは知ってる?」
「うん……」
「高校に入ってからもいつも通りだったんだけど……少し経ってから明るくなった気がしてさ。どうしたのか聞いたら言ってたの」
杏は大翔の返事を思い出す。
『最近興味持った人がいてさ。その人に会えるって思ったら学校が楽しみで仕方ないんだ』
「……」
「あのお兄ちゃんが興味持つなんてどんな人なんだろう?って思ってたけど……なんとなくわかった気がする」
杏がジャグジーバスから上がると、美しい裸体が露わになる。
「それにお姉ちゃんといる時のお兄ちゃん明るいし、楽しそう」
おもちの方を見るとニッコリと微笑む。
「これからもお兄ちゃんと仲良くしてね。もちろん私とも!」
そう言い残すと、バスルームを出た。
お風呂から上がり、パジャマに着替えたおもちは大翔の部屋のドアをノックする。
「誰?」
「大翔君……ちょっといいですか?」
「いいよ。入って」
ドアを開き、部屋に入ると教科書とノートを机に広げて勉強する大翔がいた。
「ごめんなさい勉強中に……後の方がいいですか?」
「ううん。丁度終わったところだから」
ペンを置くと体をおもちの方に向ける。
「どうかしたの?」
「その……聞きたいことがあって……」
「何?」
「どうして……私を泊めてくれたのですか?」
大翔は困ったように言う。
「どうしてって言われても……自分にできることはこれぐらいだからさ。
おもちちゃんのお母さんの入院費や手術費を出すのもよかったけど……それはそれでやりすぎかなと思って……」
(話の範囲が思ったより大きかった……)
そんなこと考えていたとは……思いもしなかった。
「理由をつけるとするなら感謝してるからかな?」
「感謝……ですか?私は何もしてないですよ?」
「そんなことないよ。俺がおもちちゃんに感謝したのは出会えたことなんだ。おもちちゃんに会えなかったら……俺は高校生活ずっと一人だったかもしれないから」
「……!」
「まぁ……結局転校することになっちゃったけどさ」
「大翔君……」
おもちが頭を下げる。
「ありがとうございます。私に良くしてくれて……」
「いいって別に。おもちちゃんの力になれたのならよかった」
大翔が微笑むと、アラームが鳴る。
「あっ……もうこんな時間か」
「私もう行きますね」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ……なさい……」
自分の部屋を出ると、大翔の言葉を思い出す。
『おもちちゃんの力になれたのならよかった』
なんでだろう……友達でもここまで優しくしてくれるのかな?
そんな疑問が頭に出る。いや……違う。これは疑問じゃない願望だ。
この優しさが特別であってほしいという自分の願望。
自分だけに向けられる……特別な感情であってほしいと。
(ダメだよ……そんなこと思ったら……稲見ちゃんを傷つけちゃう……)
稲見を傷つけると思った理由は?
(だって……稲見ちゃんは大翔君のこと好きなんだもん……)
どうしてしんどそうな顔をしているの?
(それは……)
あれ……なんでこんなに胸がしんどいのだろう……?




