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第1話 図書委員のおもちちゃん

金持ちの家に生まれたかった。そんな願望を齋藤大翔さいとうひろとは何度も聞いた。

では……もし自分が金持ちの家に生まれて、こういうことを言われたとしても、よかったと思えるだろうか。


「大翔~奢ってくれよ〜金持ちだしいいだろ?」

「金持ちはいいよな~欲しいものは買えるし、無駄遣いできるし。俺にもくれよ~」

「私~大翔君みたいな人と結婚したいなぁ~」


うんざりだった。金目当てで近づいてきたり、実家が金持ちであることを嫉妬されたり……

俺を利用しようとする奴ばかりが、俺と仲良くなりたがる。

だから決めた。俺は友達を作ったりしないと。



とある日の朝。

大翔はぼさぼさになった髪を手でかきながら、ダイニングルームに向かう。


「おはようございます。お坊ちゃま」

「おはよう」

「今日はよく眠れましたか?」

「全然。徹夜で勉強してたから」

「寝不足は体調不良を引き起こしますよ?睡眠はしっかりとってくださいね」

「努力するよ」


大翔を心配するダンディな老人は秋山博俊あきやまひろとし

齋藤家の執事で、普段家にいない父親の代わりに身の回りの世話をしている。


「杏は?」

「杏様なら、朝から体調が悪くお休みになられています」

「そっか……俺も休みたいな~」


二人が話しているのは大翔の妹、齋藤杏さいとうあんずのことだ。

杏は中学生で我儘なところもあるが、可愛くて大切な妹だ。


「ダメですよ?お父様から学校は無遅刻無欠席で行くようにと言われたのをお忘れですか?」

「だってつまんないんだよな~授業でやってる内容も予習で理解してるし」


大翔は博俊が用意したハムエッグを口に入れる。


「さすがお坊ちゃま。学力《《だけ》》は凄いですね」

「学力だけってなんだよ?」

「勉強以外のお坊ちゃまはだらしないので」

「うるさいなぁ」


朝食を食べ終わった大翔は、口を拭くと立ち上がった。


「美味しかったよ。ごちそうさま」

「学校にはちゃんと行ってくださいよ」

「分かってる」


大翔は部屋に戻ると、制服に着替えて鞄を持つ。


「いってらっしゃいませ。お坊ちゃま」

「あぁ。杏を頼む」


そう言うと、家を出た。



大翔が通っているのは名門私立高校の『光星学園』だ。

進学、芸能、スポーツなどのあらゆる分野に対応している。

大翔が在籍するのは『文理学科』。難関国公立大学進学を目指す学科だ。


(まぁ……勉強自体は難しくないけどな)


学校に着くと、自分の教室がある棟に向かって歩いていく。


(今日も野球部練習してるな~)


移動しながら、野球部の練習風景を見つめる。

文理学科は他学科と比べて、一番授業数が多いので原則、運動部に入部できない。


(別に羨ましいわけじゃないけど)


教室に入り、自分の席に座ると今日の授業の予習をする。


(先生のスピード的に今日はここまでかな?)


教科書で予習していると、金髪でポニーテールの女子生徒が話しかけてきた。


「大翔君おはよう!」


話しかけてきたのは河野稲見こうのいなみ。人と関わりたがらない大翔に毎日話しかけてくる。


「おはよう」

「今日も予習?真面目だね~」

「別にいいだろ」

「大翔君のそういう真面目なところ大好きだよ」

「あっそ」


大翔が構わずに予習していると、稲見は不満そうに話しかける。


「ねぇ。いつになったら私の気持ちに答えてくれるの?」

「答えるつもりはない」

「どうして?」

「どうせ俺が御曹司なのを利用して好き勝手に金を使いまくるんだろ?」

「そんなことしないよ~私は大翔君が好きなんだから」


噓つけ……そう思っていたが、口には出さなかった。



放課後。長い授業が終わり、大翔が教室を出ようとすると稲見が話しかける。


「大翔君~!デートしようよ!」

「断る」

「なんで?」

「お前が嫌いだから」

「ひどいな~今日デートしたら好きになるかもよ?」

「安心しろ。100%(絶対)ない」


大翔は稲見を無視して廊下を歩く。


「ねぇ~!行こうよ~!」

「一人で行け」

「それデートじゃないじゃ~ん!」


廊下を歩いていき、たどり着いたのは図書室だった。

靴を脱ぎ、入室するとぽっちゃり体型の女子生徒がカウンターに座っている。

大翔に気づいたのか、会釈したので大翔も会釈する。

(初めて図書室に来たな)


大翔は本棚に向かう。『経営』の本棚を見つけると、本を探し始める。


(どの本が勉強になるか分からないな……)


そう思っていると、後ろから声がした。


「あの……」

「……!」


大翔がビクッと反応して振り返ると、さっきの女子生徒がいた。


「あっ……ごめんなさい……本が見つからないのかなと思って……」

「えっと……経営の本を探していたんですけど、どれが勉強になるか分からなくて……」


こんなこと聞いても分かるわけないよな……いくら図書委員といっても……


「でしたらこの本がおすすめですよ」


女子生徒が手に取った本を進める。


「この人が書いている経営論は凄く為になると思うのでおすすめですよ?」

「……じゃあそれ借ります」

「わかりました」


カウンターに移動すると、貸出手続きをする。


「では二週間後までに返却してください」

「ありがとうございます」


本を受け取った大翔はじっと女子生徒を見つめる。


「あの……何か?」

「えっと……経営の本なんて誰も読まないんじゃないかと思ったので……図書委員でも分からないんじゃないかと思ったんですけど……」

「あぁ……実は私の家、母子家庭で……女手一つで私を育ててくれたのでお母さんに楽させてあげたいと思って……

それで経営の勉強していたんですけど……私には難しいと思って……」

「……」

「すみませんこんな話して……つまらないですよね?」


女子生徒が申し訳なさそうな顔をする。


「……あの。あなたの名前は?」

「私の……名前ですか?」

「はい」


なんでだろう?この人に凄く興味がある……ただ気になったことを聞いただけなのに……


善哉ぜんざいおもちって言います」

「善哉……おもち……」


大翔は名前を聞いた瞬間、脳におもちの情報を記憶した。

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