試験と入学…
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王立学園からの手紙がきて7年。俺は現在、馬車に揺られている。
王立学園に行くには王都へ向かわなければならない。しかし、王都へ行くには近い者は馬車で向かい、遠い者は門と呼ばれる長距離移動魔法陣を使わなくてはならない。
因みに我がプルーム家は王都からかなり離れており、必ず門を使わなければ短時間で王都には辿り着けない。かなり面倒だ。
おまけに、門は慣れていない者が使えば魔力酔いを引き起こし、かなり辛いときく。
300年前はこういったモノはなかったから、かなり便利化が進んでいることが伺える。他にも色々と便利なモノがあるらしい。ちょっと楽しみだ。
ちなみに、今はゆったり馬車に揺られているが、屋敷では大変だった。
□□□□
「忘れ物はありませんか?」
「学園までの道のりは覚えておいでですよね?」
「やっぱり門までお見送りいたします!」
「御坊ちゃま行っちゃイヤです〜!!」
「我々のこと忘れないでくださいよっ?」
「やはり私も御坊ちゃまと共に!」
「御坊ちゃまからのお手紙皆でお待ちいたしますので!」
使用人たちに矢継ぎ早に捲し立てられ、顔が引きつるおもいだ。だがまあ、この様子からみるに使用人たちとは良好な関係を築けたということだろう。それなら少しは感受しよう。だが、
「一旦少し落ち着いてくれないか?」
両手を顔の前まであげ静止の意を唱える。とたんに使用人たちは皆静まり口をつぐんだ。
こういうところはよく教育がされていると思う。
心の中で呆れながら感嘆していると、静観していた執事が1歩踏み出し前に出た。
「御坊ちゃま、お体にはお気をつけていってらっしゃいませ。道中気分が優れないようであれば必ず薬を服用なされてください。あまりご無理はなさらずに」
そういうと、執事は会釈したのち1歩後ろに下がった。
さすがプルーム家の筆頭執事長だ。落ち着き払っており礼節がしっかりしている。が、一見淡白なように見えてそのくせ実は人1倍心配してるのがみてとれる。
いつのまに薬を用意したんだか…。
「近況の手紙は時々書いて送るよ。忘れ物もないし、道のりはちゃんと覚えているよ。無理はあまりしないようにはするけど絶対は無理かな。薬はありがとう。皆のことは忘れないから安心して」
ひとりひとりの顔を見ながら言葉を返す。なんだか今生の別みたいになってしまったな…。
まあでも、学園に申請すれば帰郷することもできるし何年も会えないわけじゃない。帰郷するかどうかはわかんないけど…。
そろそろ出発する時間だ。名残惜しくもあるが、目的のためにも前へ進まなくてはならない。気持ちを新たに、使用人たちに別れを告げる。
「それじゃあ行ってくるよ。みんな元気で」
「御坊ちゃまもお元気で、いってらっしゃいませ」
「いってらっしゃいませ御坊ちゃま」
執事が先頭に立ち言葉を告げると、他の使用人たちもそれに続く。
俺は馬車に乗り込み、屋敷と使用人に別れを告げた。
□□□□
本当だったら余裕のある時間帯で屋敷を出て、王都に着いていたはずなんだがな…。15分くらい屋敷の前で捕まっていた気がする。少し疲れた気もするが仕方がないか。
馬車の中から空を見上げ、短いため息をこぼす。
数分前のことを思い返していればいつの間にやら門前に到着したようだ。荷物を持ち馬車から降りる。門の前には結構な人が並んでおり、その中のおよそ半数近くが学生のようだった。我が領地内の貴族の子たちなのだろう。皆緊張気味で少し浮き足だった雰囲気だ。
その光景を眺めていると、1人の兵士に声をかけられた。
「失礼、もしやプルーム家のご子息でいらっしゃいますか?」
「ああそうだが。それが?」
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
そう言われ、兵士の先導についていく。
先導されてついた先は、門の前で兵士に魔法陣の中に入るよう促される。うん、ちょっと待とうか。
「並ばなくていいのか?他の人らは皆並んでいるだろう。横入りは流石にどうなんだ…」
チラリと後方を見ながら兵士へと疑問を投げかける。
「大丈夫です。そもそもこの門はプルーム家が所有しています。それを我々領民のために使用を許可されました。本来は我々領民などでは使用できません。他の領地では通行料が高かったり、貴族以外は使用できないのが一般的です。ですがプルーム家は使用を許可なさりさらにはタダで通行をお許しになっております。ですので、プルーム家の方々がお先に通られるのは我々からの感謝の意でもございます。どうぞお通りください」
片膝をつき頭を下げる兵士に理由を説明され、これ以上の言葉は彼らにとって失礼に値するだろう。ここは黙って素直に通ることにしよう。
そう思い兵士に立ち上がるよう促す。荷物を持ち直し、魔法陣へと歩を進める。ちょうど真ん中に立つと魔法陣が光り、門が起動する。
空間が歪む感覚を感じ、静かに目を閉じる。この感覚は以前にも経験したことがある。魔力酔いとは違うこの感じはきっと、懐かしさ。
____彼を想起させる、懐かしさだ。
そっと目を開けると、そこは王都の中心部“リゼーラ”と呼ばれる街だった。
中心都市“リゼーラ”そこから少し歩いた先に名門王立学園が建っている。
貴族のほとんどがそこに通っており、卒業後はおよそ半数近くがあらゆるところからスカウトされ就職していく。残りの半数は実家に帰り家業の手伝いや、爵位を引き継いだりする。
学園はいわゆる通過地点だ。
平民は通うことができないが、貴族は余程の理由がないかぎり必ずこの学園に通わされる。絶対に。ちなみに言うとこの学園は学年爵位問わず全寮制だ。
王立学園はかなり広く、学園内の敷地は都市のおよそ半分を占めている。広すぎだろ…。
なんだか少し憂鬱な気分になりながら学園へと向かう。
これからはため息をすごくしそうな予感がする。なんとなくだけど。
学園の門をくぐり、中を突き進んで行く。
しばらく歩くと建物の前に人が並んでいるのが目に見えた。学生が数列に分かれて並んでおり、建物の中へと入っていく。しばらく様子を見、ひとつの列の最後尾に並んだ。
列は順当に進んでいき、すぐに俺の番まで回ってきた。
「お名前は?」
「…レオニアル・プルームです」
「レオニアル・プルームですね。こちら学園の案内地図と、部屋の鍵です。この建物に入ったらまずは試験があります。ですので、入ってすぐの一番右の部屋に入室してください。席は自由です。試験は筆記と実技と魔力検査があります。質問はありますか?」
「試験を行うのはなぜですか?合否は?もし不合格の場合はどうなります?」
「試験を行う理由はクラス分けのためです。クラスに偏りが出ないように組まれます。合否は関係ありません。生徒の実力の確認を行なっているだけですので気を楽にして試験に挑んでください。不合格の場合はありませんのでご安心ください。他に質問がありませんでしたら中へとお進みください」
「ありがとうございます。質問はありません」
受付の人に会釈をし、受け取った鍵などを鞄にしまい中へと入る。
すごく丁寧な説明と柔らかい物腰の人だ。受付をしていたが生徒なのだろうか?それとも教師?
先ほどの受付人に関心をしながら、言われた一番右の部屋へと入る。中にはまばらに生徒が座っており、俺は真ん中の窓際の席に腰を下ろした。
前を見ると、教卓の隣に大きな砂時計が置かれていた。かなり大きい。あれも魔道具だろうか?
ぼうっとそれを眺めていると、時間が経っていたのか1人の教師らしき人が部屋に入ってきた。
「静粛に。これより筆記試験を始める。制限時間は1時間、気楽に受けてくれ」
そう言いながら、男が持っていた杖を一振りすると教卓の上に置かれていた紙が、全員の机の上に配られていく。全てが行き渡ったことを確認し、男は杖を振り開始の合図を出す。
「はじめ!」
その一言で全員が裏返しの紙をひっくり返し問題を解き始める。
俺もペンを取り紙をひっくり返す。そして固まった。
____問題むずくね?
これでも一応家庭教師から授業をうけ、7年もの間勉強してきた。が、これは完全なる範囲外な気がする。
手が止まっていたのは俺だけではないようで、辺りは静かでペンで書く音ひとつしない。
本当に実力確認のための試験なのか?嫌がらせのように感じてきた。
さてどうしたものかと思い、問題文をよく読んでみる。そこでふと違和感に気づいた。これはただの問題なんかじゃない。どこか質問のような問題だ。明らかに変だ。それに、この文章をどこかで見た、いや聞いたことがある気がする。確か彼がよく言っていた気が…。
「……」
“魔法とはなんのために存在しなんのために使うのか”
彼は言った。
『魔法とは人と人とを繋ぎ世界をより良くするためにある』
気づいた時にはペンが紙の上を走っていた。他の文章も知っている。
“騎士の志とは剣を握るということはなにか”
『騎士とは人々を守る盾であり同時に命を奪うことも容易いものである』
“武闘の真髄とは”
『武闘とは精神との戦い己自身との戦い過去や未来との戦いである』
“錬金術とはなにを成すのか”
『錬金術とは人が生きやすいようにするための発明であり発見である』
“召喚とはなぜか”
『召喚とは契約であり生き物との繋がりであり生命の神秘である』
“精霊術とはどういった存在か”
『精霊術とは世界との対話であり祝福であり人々の祈りである』
彼らは言った。
そのひとつひとつにちゃんとした意味と理由が存在すると。
彼らは言った。
力とは恐れであり敬意であると。
彼らは言った。
力を持つものはその力の使い方を学び、正しく使うものだと。
久しく忘れていた彼らの言葉が思い起こされ、気づけば用紙の空欄は全て埋まっていた。なぜこのような問題とも言えぬ問題を試験でやらせるのかわからないが、きっとこれにも理由があるのだろう。
そう自分に言い聞かせるように心の中で呟き、そっとペンを置いた。
砂時計を見ると、ちょうど砂が落ちきる数秒前だった。
□□□□
筆記試験が終わり、学生は全員外の訓練場のような場所まで移動させられた。
次は実技試験のようだ。
実技試験は簡単で、体力、魔法、剣術の3つの項目を受けるだけだった。
体力は制限時間30分の間ひたすら指定されたコースを走るだけ。何人か途中で脱落していった子たちがいたが、4分の1ほどは完走しきっていた。
魔法は壁や的を狙って攻撃をするだけ。試験官からオーケーが出れば終わり。1番楽で簡単な試験だった。
剣術は試験官相手に1本取るというもの。掠るだけでもオーケーらしい。これは何人かが時間が掛かっていた気がする。
実技の試験も難なく終了し、残すは魔力検査だけだ。
全学生が大きな広間に集められる。教師陣がいる場所になにか大きなものが2つ置いてあるのが見える。
あれは確か魔道具であの大きな石みたいなものは魔石だろうか?あんな大きさの魔石は初めて見る。多分この世界でも数個しか存在しないだろう。
ひとりひとり名前を呼ばれていき、皆魔道具に手を翳している。
俺の順番は案外早く訪れ、魔道具へと近づく。
「レオニアル・プルーム。ここに手を触れろ」
「はい」
男に言われた通りに板のような場所に手を触れる。魔道具は光り輝き魔石に何やら数字のようなものが浮かび上がる。
“617”
この数字が高いのか低いのかわからん…。
釈然としないままもういいのだろうかと男に視線を向ける。
何かが変だった。
教師陣はその数字を見て全員が固まっていた。え。何その反応。怖いんだけど。
男に声をかけると、ハッとしたようにこちらを見てオーケーだ、自分の部屋へと言っていいぞ。と答えた。
先ほどのあれは一体なんだったのだろうか?
今日のこの試験は全て意味のわからないものばかりが多かった。趣旨がわからない。本当に実力を知るためだけの試験なのだろうか?それにしては理解不能なものが多かった。筆記試験が特に。
疑問だけが心の中にただ残っただけの1日になった。
そして翌日、俺は晴れて王立学園の生徒となり学園に通うこととなった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
駄文ではありますが、頑張って次の話も投稿していきます。更新は遅いしまちまちだと思いますが。
次の話も読んでいただけると嬉しいです。
次の更新までしばらくお待ちください。