第5話 異世界育児は試練の連続!?それでもエンターテイナー魂は燃えている!
(うぎゃあ……ぐええ……)
コバヤシ、改め、今はまだ名前も与えられていないであろう小さな赤ん坊は、目覚めては泣き、腹が減っては泣き、オムツが濡れても泣くという、まさに赤ちゃんとしてのあるべき姿を完璧に体現していた。もちろん、内心では「ホンマにもう、なんでこんなに動けへんねん!」「お腹空いたって言ってるやろ!」と、関西弁で盛大にツッコミを入れているのだが、口から出てくるのは無力な泣き声ばかりだ。
それでも、前世の記憶を持つコバヤシにとって、この赤ん坊としての生活は、色々な発見と驚きに満ちていた。
まず、この世界の空気は、どこまでも清らかで美味しい。そして、母親らしき女性が抱きしめてくれる時の温かさと安心感は、前世では味わえなかったものだ。彼女はいつも優しい笑顔でコバヤシを見つめ、「可愛いね」「良い子ね」と、聞いたことのない優しい言葉をかけてくれる。父親らしき男性は、少し厳めしい顔をしていることが多いが、時折見せる笑顔はとても温かい。
(この人らが、ワイの新しいお父さんとお母さんか……なんか、ええ人そうでよかった)
言葉はまだ話せないが、コバヤシは二人のことを心の中でそう呼んでいた。
赤ん坊としての毎日は、単調ではあるものの、コバヤシは持ち前の観察眼を活かして、この世界の情報を少しずつ集めていた。母親が話す言葉の響き、部屋に飾られた見慣れない道具、窓から見える風景……全てが新鮮で興味深い。特に、時折部屋に現れる、耳が長く尖った人々は、ファンタジー世界の住人であることを強く感じさせた。
(エルフや!ほんまにエルフがおるんや!)
心の中で興奮するコバヤシだったが、もちろんそれを言葉にすることはできない。ただ、彼らを見つめて、小さく手を伸ばすことしかできなかった。エルフたちは、そんなコバヤシを面白そうに眺め、時には優しく微笑んでくれることもあった。
生後数ヶ月が過ぎ、コバヤシは少しずつ体を動かせるようになってきた。寝返りを打ったり、手足をバタバタさせたり。そんなささやかな成長にも、両親は心底喜び、褒めてくれる。
(ホンマ、親ってすごいなぁ……こんな小さなことで、あんなに喜んでくれるなんて)
コバヤシは、前世ではあまり意識していなかった親の愛情深さを、 इस生で改めて感じていた。
そして、コバヤシの中で、エンターテイナーとしての魂もまた、少しずつ芽生え始めていた。まだ言葉は話せないけれど、母親があやす時に見せる笑顔を真似てみたり、手足をリズミカルに動かしてみたり。すると、母親は決まって嬉しそうに笑ってくれるのだ。
(やっぱり、人を笑顔にするってええなぁ!)
言葉や動きはまだ拙いけれど、コバヤシは赤ん坊なりに、人を笑顔にする喜びを感じ始めていた。いつかこの世界で、前世以上のエンターテイナーになって、たくさんの人を笑顔にしたい。その思いは、小さな体の中で、少しずつ大きくなっていっていた。
今日もまた、コバヤシは母親の優しい歌声を聞きながら、夢の中で、異世界を舞台にした壮大なエンターテイメントショーを繰り広げるのだった。