第3話 笑いの力
「特別なギフト?」
コバヤシは、アポロンの言葉に目を輝かせた。苦労して笑わせた甲斐があったというものだ。他の神々は相変わらず無表情だったり、興味なさそうにしていたりするが、一人でも笑ってくれた神様がいたことが大きい。しかも、太陽神アポロンだ。なんかこう、陽のオーラがすごい。
「うむ。そなたのその、どんな状況でも人を笑顔にしようとする心意気、そして実際に人を笑わせる才能は、この異世界においてもきっと役に立つだろう。故に、そなたには特別なスキルを授けよう」
アポロンはそう言うと、人差し指をコバヤシの額に軽く触れた。
「……ん?なんかポカポカする」
コバヤシが不思議そうに自分の額に触れると、頭の中に、まるで雷が落ちたかのような衝撃が走った。
【ユニークスキル:太陽神の寵愛】を獲得しました。
【ユニークスキル:万能エンターテイナー】を獲得しました。
(なんやこれ!?スキルが二つも!?しかもユニークスキルって、なんかめっちゃレアそうやん!)
コバヤシは、頭の中に流れ込んできた情報に驚きを隠せない。太陽神の寵愛……アポロンに気に入られた証拠だろう。だが、もう一つのスキル、【万能エンターテイナー】とは一体?
「そなたに授けた『太陽神の寵愛』は、太陽の加護を受け、常に微量の生命力と魔力を回復させる効果を持つ。そして『万能エンターテイナー』は、そなたが前世で培ってきたあらゆるエンターテイメントの才能を、この世界で応用するための助けとなるだろう。歌、踊り、話術、そして……柔道。それら全てが、この世界で新たな力となる可能性を秘めている」
アポロンは、まるでコバヤシの心の声が聞こえているかのように、それぞれのスキルの効果を説明してくれた。
「ただし、これらのスキルをどのように活かすかは、そなた次第だ。この力を使って人々を笑顔にするもよし、己の身を守るために使うもよし。どのような生き方を選ぶかは、そなたの自由だ」
そう言い残すと、アポロンは満足そうに頷き、他の神々の元へと戻っていった。
(なるほどなぁ……エンターテイナーとしての才能が、この世界で力になる、か)
コバヤシは、自分の両手を握りしめた。前世では、ただの人を楽しませるだけの存在だったかもしれない。だが、この異世界では、自分のエンターテイメントが、本当に誰かの助けになるかもしれない。
(せや!せっかく異世界に来たんやから、日本一どころか、異世界一のエンターテイナー目指したるで!)
新たな目標を見つけたコバヤシの目は、希望に燃えていた。周りの人々はまだ神々の列に並んでいるが、コバヤシはもう自分の進むべき道を見定めた。
(まずは、この状況を整理せんとあかんな)
コバヤシは、改めて周囲を見渡した。自分と同じように、ギフトを受け取ったらしい人々の中には、既に何やらステータス画面のようなものを見ている者もいる。
「あのー、すんません!」
コバヤシは、近くにいた若い男性に声をかけた。「あの、皆さんが見てるアレって、一体なんなんですか?」
若い男性は、怪訝そうな表情でコバヤシを振り返った。「アレ?ああ、ステータスウィンドウですよ。神様からギフトを貰う時に、一緒に見えるようになったんじゃないんですか?」
「え?見えてないですけど……」
コバヤシが正直に答えると、若い男性は目を丸くした。「マジですか?普通は見えるはずなんですけど……もしかして、ハズレギフトだったとか?」
その言葉に、コバヤシは一瞬不安になった。せっかくアポロンに気に入られて特別なギフトを貰ったのに、ステータスが見えないなんて、やっぱり落ちこぼれなのか?
しかし、すぐにその不安は吹き飛んだ。
(いやいや、アポロンがハズレのギフトくれるわけないやろ!ステータスが見えへんなら見えへんかったで、別の方法で成り上がったるわ!)
コバヤシは、持ち前のポジティブ思考でそう結論付けると、ニカッと笑って若い男性に言った。「そうですかー。まあ、なんとかなるでしょう!」
そう言って、コバヤシは、ファンタジー世界の新たな一歩を踏み出したのだった。まずは、この見慣れない場所から脱出しなければ。そして、自分のエンターテイメントがどこまで通用するのか、試してみるのが楽しみで仕方なかった。