第2話 神々を笑わせろ!浪花のエンターテイナー魂
「ギフト?神を選ぶ?」
周りの人々が、まるで就職活動の説明会にでも来たかのように、神々の前にそれぞれの列を作り始めるのを、ジュウドーコバヤシは腕組みをして眺めていた。太陽のように輝く神、厳めしい顔をした武神のような神、優しそうな女神……なるほど、それぞれにご利益がありそうな雰囲気は出している。
(せやけど、ちょっと待てよ)
コバヤシのエンターテイナー魂が騒ぎ出した。神からのギフトを受け取る?言われるがままに列に並ぶ?それは、自分のギャグセンスが通じるかどうかもわからない相手に、ただお恵みを乞うようなものじゃないか。そんなん、浪花のエンターテイナーのプライドが許さへん!
(おもろいもん見せて、笑かした相手から何か貰う方が、よっぽど気持ちええやろ!)
コバヤシは決意した。神を選ぶなんて生ぬるい。ここは一発、神々を笑わせることに賭けてみよう。自分のギャグが通用しない相手から何かを貰おうなんて考えたら、そりゃあもう負け犬の思考回路や。
「っしゃあ、いっちょやっちゃりますかー!」
コバヤシは腹の底から気合を入れると、周囲の戸惑う視線をよそに、ステージの中央へと歩み出た。コテコテの関西弁をまくし立て、テンションを最高潮にまで上げていく。
「皆さん、よーく見ててくださいよ!ジュウドーコバヤシ、渾身のギャグ、連発したります!」
神々は、そんな人間の行動を興味深そうに見下ろしていた。しかし、その表情は微動だにしない。太陽神アポロンは腕を組み、武神らしき神は目を閉じている。女神に至っては、優しそうな微笑みを浮かべているものの、それはコバヤシに向けられたものではないようだ。
(ホンマに笑わへんのかい!人間とはレベルが違うってか?上等や!)
コバヤシはギアをさらに一段上げた。まずは、紳士淑女の皆様にも楽しんでいただける、上品なギャグから。深々と頭を下げ、流暢な関西弁で早口言葉を披露する。「隣の客はよく柿食う客やで!」「坊主が屏風に上手な絵を描いた」。しかし、神々の表情は変わらない。微かに首を傾げる神もいるが、それは「?」という疑問符を表しているようだった。
次に繰り出したのは、シリアスな雰囲気のギャグだ。舞台の中央に仁王立ちになり、 गंभीरな表情で人生の深い問いを投げかける。「人間にとって、一番大切なものは何でしょう?……それは、やっぱり笑顔ですよね!」ドヤ顔を決めるコバヤシ。しかし、神々はポーカーフェイスを貫いている。
(しゃあない、動きで勝負や!)
今度は、得意の柔道パフォーマンスを取り入れた動きのあるギャグだ。誰もいない相手に華麗な一本背負いを決めたり、コミカルな受け身を連発したり。時には、意味不明な動きを織り交ぜ、奇声を発してみる。それでも、神々の口角はピクリとも上がらない。
(リズムネタはどうや!)
足を踏み鳴らし、手拍子をしながら、即興のリズムネタを始める。「パン!パン!」「なんでやねん!」「パン!パン!」「知らんけど!」。しかし、神々にはただの騒音にしか聞こえていないのかもしれない。
焦り始めたコバヤシは、なりふり構わずフリップネタを取り出した。事前に用意していたわけではない。その場で思いついたイラストや下手な文字を、即席のフリップに書いては掲げていく。「今日の晩御飯はカレーライス!」「好きな食べ物はたこ焼き!」「ペットの名前はポチ!」……神々の反応は、ますます薄れていくようだった。
(もう、これしかない!)
最後の手段として、コバヤシは禁断の扉を開いた。それは、これまであらゆる舞台でウケてきた、鉄板の下ネタだった。放送禁止用語ギリギリの、しかし笑いのツボを心得た卑猥なジョークを、大声でぶち込んだのだ!
その瞬間――
静寂を破って、一人の神が吹き出したように笑った。「ハハハハハ!君は面白いねえ!」
太陽のように金色に輝く髪と瞳を持つ神が、コバヤシに向かって近づいてきた。その顔には、満面の笑みが浮かんでいる。「私はアポロン。そなたのユーモアのセンス、気に入ったぞ!」
コバヤシは、全身から力が抜けるのを感じた。やった!神を笑わせた!
(やっぱり、最後はコレやな!)
安堵感と達成感に浸るコバヤシに、アポロンはさらに言葉を続けた。「そなたのその面白い魂に免じて、特別なギフトを与えよう」